karin: July 2008アーカイブ
「結婚したいなって人と出会ったことがなかったんじゃない?」
そう会社の上司に言われる。上司と会社の女の子と自分の3人で、何度目かの飲み会だけれど今日は趣向を変えてコンビニの缶ビールだ。それを口に含みながら答える。
「まあ、そうですけど…」
いや、正確に言えば付き合ったことすらない。そもそも大前提が間違っているわけで…。なんて言えるはずもなく会話は流れていった。
そのときに一緒にいた会社の女の子に言われる。
「わたしとキミはさ、性格とか正反対だよね」
「うん」
「っていうか、性別が逆っぽい…」
この彼女の意見には同意で、不思議なくらい向いてる方向が間逆なんだけど仕事という一点でのみ繋がっている。だから、魅力的に見えてしまうのかも知れない。
けれど、彼女はこちらを見ることもないように上司に対して言う。
「ぜひ良い人がいたら紹介してくださいね」
「もう、俺の年代の同級生はみんな結婚しているからなぁ」
「わたし、今度の花火大会には行きたくて」
「東京湾の?」
「そう。その日に友達から男紹介してもらおうかなって話をしているんですけど…」
自分が彼女に対してしようかと考えていた、「恋人作ろうかな」アピールで気をひく作戦を逆にやられてしまう。この精神攻撃はされると結構効くみたいだ。
もう勝手にすれば良いじゃん
そう思ってしまい、あきらめモード突入。話している間も上司ばかり見て、こっちは全然見てこないから緩めの胸元をばっちり見てやったぜ!みたいな。もう付き合うとか恋人とか恋愛とか本気で無理っぽい雰囲気になってきた。よし、死ぬか!
そんなことを思って帰宅してみると、郵便受けにハガキがはいっていた。裏返して見てみると…
“東京湾大華火祭 入場整理券”
今月始めに応募したのが届いてた。これは彼女を誘えってフラグが!話題を出した日に届くなんてすっげー運命的な、もとい作為的なものを感じる。これはあれをやるときだな。
「ねえ、花火好きなの?」
「うん。わたしはね、友達と東京湾のやつに行く予定なんだ」
「…オレじゃダメか?」
そう言って整理券を彼女に見せて…。
会社の女の子と月曜日から飲む機会があって、彼女に「来い」と言われて参加したもののダメっぽい。彼女が言う「助けてくれた人」は、いつの間にか上司だけになってた。偶然その話の都合上そう言ったのかも知れないけれど…。
その上司も、彼女にベタベタしていて肩組んだり、手握ったり、ものすごく気味が悪かった。こういうことがあるから飲み会は嫌いだ。その上、今度は他の女子にまで励ましながらベタつく。その女子に「今辞めることはない」と説得していたけれど、見てるこっちが辞めたくなった。
その上司は彼女と話をしていると参加してきて遮ってくるし、もう内心では完全に切れて帰りは彼女と上司に挨拶もしなかった。もう、その上司とは確実に合わない。
大人の恋愛ってお酒の勢いばかりで、隙があれば襲って寝取るような汚い集団なんだと思う。それは、自分の恋愛の理想とは異なっているし勝手にしてくれと。そういう場に巻き込まないでもらいたい。
女の子を触ること、逆に触られることも凄く苦手
だから、そういう場面を見るのも嫌なのかも知れない。たぶん一生このコンプレックスを抱えて生きなきゃいけないんだと思う。女性恐怖症と自意識過剰。
暮れてからは悪いことばかりだったけど、陽が出てる間は良いこともあった。
彼女は午前中から話しかけに来てくれたし、普段滅多にしてくれない土日にしたことの話をしてくれた。楽しく会話をし、彼女が話し終えてひと段落してから、彼女に言う。
「あのさ、あとで渡したいものがあるんだけど…」
「え、なーに?」
「あとで渡す。」
「うーん…、お菓子とか?」
自分の質問にフフと微笑む彼女。それから彼女は何を渡されるのか気になって、何度か「まだ?」と聞いてきたけど、あとでねと答える。そういうドキドキさせる仕組みに上手くのってくれて楽しい気分になった。
プレゼントは別にたいしたものじゃないけど、彼女は普通に喜んでくれたようだった。そのあとで、仕事の用事があって彼女に話しかけると、憧れを見るようなとろけるような瞳で見つめられた。
「どうしたの?眠い?」
そう聞いても、彼女はそうじゃないと否定する。すこし潤んだような上目遣いで見られて戸惑ってしまった。癖なのか人の目をよく見る女の子で、普段はどこか鋭い目付きの印象だけど自分と話しているときは丸い瞳になってる気がしている。そして、あのとろけたような目。これは完全に落ちて…。
でも、前にもあったし勘違いかな…。
「ねえ、この会社に来たのいつだっけ」
「えと3月のひな祭りだったかな…」
「そんなになるんだ」
「9月で半年働いたことになるし、7月ももう終わるんだよ?」
「早いよね」
「早いねー」
「どうして早いんだと思う?」
「うーん…」
「…?」
「…思い出がないからじゃないかな?」
「分かる!」
そう会社の女の子にビシッと人差し指を立てて言われた。
半年という微妙な年数で転職への身動きが取れなくなってきた。今しかないし、行動しなきゃいけないのだけど、身の安定という保障って意外に大きい。がんばり方を忘れて怠けてしまうこともある。
人生を焦る必要はないのか
それとも臆病なことに言い訳しているだけなのか
環境を変えて今より悪くなる可能性だってあるし、それなら今の場所で全力を出すことが正しいように思うこともある。年齢を重ねていくうちに考えが保守的になっているのだろうか。
空から可愛くて理想の女の子が降ってくる可能性はないし、何かしらの行動やアピールをしなきゃいけない。恥をかいたり失敗することを恐れてはいけない。恋愛も仕事もアピールしなければ何も掴めない
行動によって変えられることはあるけど、
行動しないことによって得られるものは何もない
会社の女の子に引き止められる。
「もう帰っちゃうの?」
「うん」
「明日なんか用事あるの?」
「いや…、悪酔いしちゃうから」
そう言って会社の飲み会から無事離脱してきた。周りのノリについていけないので、2次会のカラオケまでテンションを維持できなかった。上司に嫌味っぽいことも言われたし、もうやる気ゼロ。
飲み会で勢いよくお酒を飲んでいる間、周りの様子を探り探り席をずらして彼女の側に座って話をしようと近づいた。そして、上手く接近して話せたけど、彼女と話をしていたというより、彼女の上司を通して彼女の話をしただけだ。
「だから、今までも弱気になる部分があってね…」
そんな上司が言う彼女の身の上話をしていると、少し目に涙を溜め始める彼女。もしかしたら、初めて弱味を見てしまったのかもなんて思う。そこで上司に思っていたことを話した。
「そう、だから彼女は全然自信を持って仕事をできるし、何も問題ないですよね」
そうだよ、というように頷く上司。彼女のほうに目をやると、変わらない様子でずーっと上司を涙を溜めながら見ている。そして、口を開く彼女。
「いつも、彼はこういうこと言うんですよ」
それに反論するように、だから大丈夫なんだよと彼女の言葉に重ねるように言う。けれど、彼女は一向にこっちを見る様子も素振りも何もない。なんか、間違ってるのかな…。今にも泣き出しそうな彼女。弱味を見せたくないのか、はたまた嫌われているのか全然、一度も彼女と目が合わない。よし、死ぬか!
彼女が信じているものは、必ず年上なのか。それとも、利用するために媚びているのか分からないから凄く不安に思う。もっと頼りにしてくれたなら、こっちも自信を持てるのに。
そうこうしてお手洗いに行って戻ったら、彼女は別の席に移動していた。それが、新しく入って彼女を助ける上司の側で、自分はもう必要ないんだと改めて感じてしまった。
「自分は、もうダメかなって思ってる」
そう、水曜日の飲み会で言ったときにその上司は「そんなことない」と言った。それを見る彼女の様子はどこか火照ったような…、何ともいえない表情をしていた。もうダメだと思った。自分が。
その上司を批判したら、絶対に彼女に嫌われてしまうと思ったし。何だかどうでも良くなってしまった。
そして、今の飲み会。彼女が参加していること以外に興味もないから、ただ周りの下ネタに愛想笑いしていた。くだらない、乾いた笑い。その後で二次会としてカラオケに行こうという話になったが、興味も薄れて酔いも冷めてしまい帰るというアピールをした。すると、彼女との冒頭の会話に戻る。
「もう帰っちゃうの?」
「うん」
「明日なんか用事あるの?」
「いや…、悪酔いしちゃうから」
彼女は全然お酒を飲んでいなかったし、なんだか極端に冷めた気分になってしまった。彼女は周りに対してフォローするように言う。
「今度、3人で一緒に行こうね」
と、上司を含めて言う。2人きりなら喜んで行くのにな…。信用されていないんだろう。だから、この場には、全く自分がいる必要性がない。その上司といれば良いじゃん。どう見ても都合よく利用されていると思ってしまう。それに、上司の機嫌取りなんてご免だし、彼女もそれなりに楽しんでいたようだから放置で。
恋人なんて思うように作れなくて、自分が想うほど想われてはいない。彼女が言葉にする“助けてくれた人物”にはいつも2人の名前を出し、自分だけじゃなく後から来た上司のことも必ず含める。そういうことが、溜め息の原因になっているんだ。
だから、彼女の恋人にはなれない。
「キミってさ、アピールの仕方が上手くないんじゃない?」
会社の女の子がお酒の飲み会のあとの帰り道でこんなことを言った。すこし考えている素振りをすると、フォローするように続けて言う。
「あ、仕事の話じゃなくてね」
彼女が言いたかったことは、周りに対しての自己アピールという意味なのか、または彼女自身へのアピールなのか分からなかった。
アピールじゃないかも知れないけど、デートしたら次のデートの予定を作らなきゃ関係が続いていかないと思っている。誘ってみたい気持ちもあるのに、自分を知られることが凄く怖い。受け入れてもらえる自信もない。彼女に言う。
「ほんとにさ、性格とか趣味とか正反対だよね?」
「うん」
そこで少しの間があって、彼女は思い付いたかのように口を開いた。
「…でもさ、誰だって欠点とかあるものなんだよ?」
「あるかもね」
「そう。だから、完璧なんてないんだよ。だから、面白いんじゃん。」
彼女はお酒の席で酔いながらこんなことも言っていた。
「わたしは好きな人、心に決めた人になら全てを捧げられる。それは、仕事でも友達でも何でも捨てられると思う。…あ、けれど今の仕事は好きだし辞めたいって言ってるんじゃないよ。」
他にも彼女に質問をされた。
「過去に好きだった女の子のタイプってどんなの?」
うーん、と真剣に悩んでいると追い討ちをかけるように彼女が言う。
「あ、よく話してる子の話は無しで」
以前の会社でお世話になった子の話をよくしていて、それ以外の話を聞きたがっているようだった。しかし特に思い当たる人もいなく、答えに困ってしまう。
「あんまり、女の子にモテないからわかんないな」
「じゃあ、女の子っぽい服装着て女の子っぽい仕草の子と、男っぽい性格なんだけど中身は女の子みたいな人なら、どっちがタイプ?」
うん?と聞きなおすと、同じことを言う彼女。彼女自身は完全に後者のタイプだから、そう答えたほうが良いかなと口を開こうとしたタイミングで上司が話をさえぎって言う。
「いや、男はそういうとこで見てないから」
個人的には男っぽい性格の女の子、というか一生懸命に働いてるようなタイプの女の子が好きかも知れない。芯が強い女の子というか。それはそれで、この女の子には自分がいなきゃダメかなって思える女の子も好き。だけど、このタイプで嫌味にならない女の子は極端に少ない気もする。
そんな飲み会の翌日。会社の帰り際に、近い距離だから直接言えばいいのに何でもない一言をメールで送ってみたら、すごく楽しそうに笑ってくれた。幸せそうな笑顔を見せてくれる女の子もありかも知れない。
そのあと、くだらない話の途中で彼女が自虐的に言う。
「たぶん、わたしが愛に飢えてるんじゃない?」
そういうことを言われても、「そうなんだー」くらいで受け流しちゃうんだけど…。
楽しみにしていたデートなのに思ったほど書くことがない。それほど普通で、1人で歩くことがコンプレックスに思っていたはずなのに、女の子と2人で歩いてみても周りに対する優越感なんかも特に大きく感じることはなかった。
女の子はデートに遅れることが多い
そういう情報があって、余裕を持っていたけどさすがに40分待たされて電話したら、あと10分で付くって。試されているのか何なのか分からないけど、あまりいい気分じゃない。それを表情に出したら負けだと自然に振舞ったつもりだけど、隠しきれたかはちょっと不安…。
彼女が時間に遅れてしまった分、午前中だけだった予定を延長してくれたから余裕はできた。
美術館はそこそこ混んでいたし、ゆっくり見る暇はなかったけれど、彼女は作品についてのことと自分のことを重ねるように話してくれた。美術館から出ると入り口付近に人が並んでいて、彼女が首をかしげるようにして言う。
「もしかして、もしかして?」
そう言って、すこし足早に前に進んでいく彼女。列の先を見たら、最終日だから駆け込みで見る人が多く、入場制限がかかっていたようだ。それを見て彼女はこちらを見て微笑むように言う。
「凄い並んでるね。普通に見れて良かった」
「そうだね」
「混んでるからゆっくりは見れなかったけれど、遅くなくて助かったね」
それに頷いて、公園内を散歩する。彼女はカキ氷を買って自分はソフトクリームを頼んだ。ベンチじゃなくブランコに座り彼女が相談にのって欲しいと言う明日の仕事の話を聞いた。そのうち、彼女の用事の電話があって駅に戻ることになり、別れ際に彼女が自分のバッグの財布を探りながら言う。
「そういえば、チケット代…。」
「うん?」
「いくらだったの?」
「あ、いいよ」
先読みして2人分のチケットを買うことで、彼女を上手くエスコートできたように思えた。自分の話も展開できて、すこしは暗い印象を拭えた気がする。
ただ、今日のデートが2人の記念日になる可能性は期待できないだろうな。
会社の女の子に2度ほど時間を空けて電話したけど留守電に繋がってしまう。まあ、履歴で掛け直してくるだろうなんて判断してたら、タイミング悪く彼女の電話に出れなかった。そうするとメッセージが録音されていた。前の機種では留守録できなかったのに、やるな。willcom 03。
彼女はその留守録で「明日に連絡いれます」って言ってたけど、普段より弱気な声に聞こえた。
彼女の生まれもった性格なのか、凄く他人に気を遣うし何か失敗したときでも全て自分が悪いと責めてしまう。そんなことない!と言っても、気にしちゃう。そのせいか、彼女を見るたび自信を持たせてあげたいと思う。
それは自分自身が自信を持てない部分があって、彼女にも自信が持てない部分がある。だからこそ気付いてしまうんだと思う。
20代半ばからの恋愛の始め方。
自分が女の子にモテるための努力を始めてきたのは上京してからで、たぶん4年くらい。未だ全然モテないし、努力も地味なことしかしてない。だからこそ時間がかかったけど、やっと少しの自信と勇気が持てて、初デートができそうな気配。
「そば粉を10割で蕎麦を打つと、食べるほうにも緊張をもたらす。だから、そば粉8割に小麦粉2割なんだ」
そんなセリフがみなみけであった。女の子に対して緊張をさせない配慮ってしなきゃいけない。だからこそ、理想ばかりを求められると女の子も疲れてしまう。いい感じに力が抜けて、ギラギラしてない男がモテるってのも似た理由なんだろう。
だから、もうデート!とか言わない。遊びに行こうねって言うだけにする。
彼女がいる、いたことがある男と付き合うことはリスク回避になる。
今までしてきた4年間の努力も、きっと彼女という存在がいれば半年もかからないで到達できた地点だと思う。的確なアドバイスをされたと思うし、勘違いした方向に走ることもない。
じゃあ、彼女いたことない男はどうするんだよって話になるんだけど、こればかりは全然分からない。
女の子は星の数ほどいるけど、それは星のように手が届かない
やってしまった…。
ことの発端は会社で周囲が雑談していたこと。自分とか彼女とかは仕事に追われていてるのに、周りが騒がしいものだから、彼女に声を掛けにいく。
「今って忙しい?」
「うんと、すこし重なってるくらい。」
「大丈夫?なにか手伝おっか?」
「今のとこ大丈夫だよ。」
互いに目で合図して、ウンウンと頷きあう。そして、何かを言おうとしている事に気付いたのか彼女が言う。
「どうした?」
「なんかさ…」
と、騒いでるほうを指差してから言う。
「会社なのに、学校みたいに騒いでるね。集中できなくない?」
ウン、と大きく頷く彼女。
「だから、休憩しにきたんだけど」
「わたしも休憩したいから、下に行く?」
そう言われて、2人でエレベーターを使い会社を出て話をした。他愛もないような会話をしてから、会社に戻るとまだ雑談で盛り上がって馬鹿騒ぎをしていた。ほんとくだらない連中だ。
「今日、仕事終わったら飲みに行きません?」
前日に言ったことを気にしてくれていたのか、そう彼女に聞かれた。そして、彼女と自分。上司1人を交えて居酒屋に行くことになる。
「わたしの周りで自活している男の人っていなくてさ…」
「そうなの?」
「うん、いい歳して実家に住んでたりする男が多いよ。それで自分はお金持ってるって言って、そういうのが格好悪くみえて」
そういう話をする彼女。たぶん恋愛話とかから発展してきたんだと思う。酔いもあってあまり覚えてないけど。
「わたしも、何で実家出て暮らしてるの?って聞かれることが多いんだよね。だから逆に男なのに実家で暮らしていて恥ずかしくない?とか思っちゃう」
彼女の話には共感できる点も多くて、そのあとに自分の上京の話をすこしした。すると、興味深そうに聞いてくれる彼女。その話が終わると彼女が言う。
「今日は言いたいこと言った?」
普段はあまり自分のことを話すタイプじゃないから、もっと聞き出そうとしてくれたんだろうか。
「まだ、少しあるけど」
「全部言っちゃいなよ。じゃあさ…」
そう言ってから彼女は小さな両手を広げて数字の10のような形を作って言う。
「今日は10のうち、0.5くらい言ってみない?」
自分では2~3くらい話したと思っていたので、彼女にそう見られていたことに少し落ち込む。それを忘れるようにお酒を飲む。
「わたしとキミって、趣味とか全然違うけど仕事で繋がってるから考えは合うよね」
「あるね。よく同じことを考えてたりする」
そういう話をしていると、上司が嫁との出会いを語り始める。それが今の自分と彼女の関係みたいに聞こえた。そういう話のあとで彼女の元彼の話とかがあり、付き合った経験がないため会話に混じれないから、もっとお酒を飲む。
そういうことを繰り返して店を出たのが朝。
上司が別の駅に歩き出し、自分は彼女と一緒の2人で駅まで歩く。
「わたし、実はあんまり酔えてない」
「それって心配ごとが多いから?」
彼女はあくびをしてから、ウンと頷いた。具体的にアピールするような話などもなく、そうこうしてるうちに駅についた。彼女が言う。
「電車動いてるかなー」
「うん、たぶん大丈夫だよ」
「わたしさ、仕事終わるの遅くて責められてるのかな」
飲み会の前に予想以上に時間がかかったことを責める彼女。極端に弱気な様子を見せる。それが不思議で仕方なくて、全然自分を責める必要がないと強く言う。
「たまにわたしは家で悔しくて泣いたりもするんだ」
「でもさ、絶対に泣かないみたいなこと言ってなかった?」
「そんなことないよ」
そう飲みながら言っていたことを思い出す。絶対に人前では泣かないと強がっていても、たまに見せる凄く弱気な普段の様子が浮かんだ。
電車に乗って彼女からガムをもらう。寝てしまうからと言って一緒に席に座るのをやめて立ったまま彼女に話しかける。
「あのさ、月曜日のことなんだけど…」
そう言うだけで察しの良い彼女は一瞬で美術館に行くことだと理解する。頷く彼女に対して続けて言う。
「日曜日に電話するから」
「…うん」
「月曜日に愚痴は言わないようにしようね」
そう言うと、できるかなと不安そうに呟く彼女。駅について、「お疲れ様でした」と妙にかしこまって言われる。それをスルーするように「帰れる?大丈夫?」と心配する。うん、と彼女は小さく言ってから、じゃあねと小さく手を振る合図をする。
その彼女の手を引っ張って…、なんてことが出来ないまま帰ってきたら朝だった。なんだか知らないけど、月曜日は初デートになりそう。ただし、午前中だけなんて条件付きだから、デートじゃなく本当にただ一緒に美術館に行くってだけなんだけど。
まだ恋人が出来ないらしい。
会社の女の子が遅れて出社してきて、何となく話しにくい雰囲気の一日だった。彼女の中で何か心境の変化があったのか、上手くコミュニケーションがとれなかった。
彼女は、彼女の嫌いな女性に対してこう言った。
「あの子は媚ばかり売っていて嫌い。仕事のミスを2人で庇い合ってる。そういう夫婦ごっこみたいなことをしててさ、勝手にしてれば?って思うんだよね」
仕事をしているときに休憩を兼ねて煙草を吸いに行く彼女。そのときには、必ず上司と行くようになった。それは愚痴を聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりといった話をするためだろう。そういう様子を見ていると、彼女のしてることも『夫婦ごっこ』に見えてしまう。
自分も同じことやってんじゃん。だから、嫌いなの?と感じてしまう。
仕事で上手く彼女をフォローしてあげていたけど、今になって全てを上司に奪われた気がしてる。その上司と何度も飲みに行ったなんてことを嬉しそうに報告してくるし、もう彼女にとって自分は必要ないんだ。
そう完全にあきらめて、冷めた態度でいると彼女から話しかけられる。これだって、彼女が以前仕事がないときにしていた『媚びる』ということに思える。機嫌をとっていれば、それは自分の利益になる。そういう判断なんだろう。
女性不信
何度か彼女に話しかけるんだけど、心の中で信じられない気持ちが潜んでいるせいか会話も弾ませなかった。彼女の微笑も、それが作られた笑顔に見えて自分が悲しくなるだけだ。この4ヶ月と少しで自分が彼女にしてあげられたことって何だろう…。
仕事終わりで会社の何名かでタイミングを合わせて帰った。隣り合った彼女に対して言う。
「今日は飲みに行かないの?」
「うん、今日は行かない」
そうあっさり答えて歩みを進める。そして、すこし歩くと上司が言う。
「僕は煙草吸ってから帰るので…」
と喫煙所を指差す。口々にお疲れ様と声を掛ける中で彼女が言う。
「あ、わたしも吸ってから帰ります」
彼女は優しくしてくれる上司が好きなんだろう。彼は既婚者だから恋愛には発展しないけれど、結局のところ彼女自身も『夫婦ごっこ』をしているように見えてしまう。こういうことが精神的に凄く疲れる。
他にも個人的に嫌いなことは、女の子の前だけで格好つけようとする男。これを察知してしまうと、とてつもなく居心地が悪くなる。その上司にもそう感じてしまう瞬間があって、もの凄く気分が悪くなった。
男の前で態度が変わる女はウザい
これの男女が逆になったパターン。とにかくすごく気味が悪い。
いろんな彼女に関する情報をまとめて行くと、こうして上手く嫌われている理由を探せるし、逆に好かれている理由も書けないほどたくさんあって。それを全部まとめて好きか嫌いか判断するなんて不可能に近い。だから彼女の気持ちなんて分かるはずもない。
もうどうすれば恋人が出来るのかわからん。
女の子同士の関係って表面上は仲良く見えるけど裏側は結構すごいことになっている。
「わたしはあの子とは絶対に合わないから」
「うん?どうして?」
「なんか、生意気じゃない?」
小さな会社だから、嫌でも付き合わない訳にはいかない。午前中にその嫌いな女子から訳の分からない案件が回ってきて、彼女はイライラしていた。
「もう、ありえない!」
そう愚痴を言うのを頷きながら聞いてあげる。彼女もどんどん不満をぶつけてきた。
「ぶっちゃけ、わたし辞めさせられそうかなって気がしててさ」
「何で?」
「評価を個人の売り上げに設定されたら、わたしだけ売り上げが少なくて責められる気がするし、社長はわたしのこと辞めさせたいんじゃないかな?」
そのことについて、自分でも同じ考え方をしていた。
「そう思ってた。」
「でしょう?だから、小さい仕事もわたしがやらないとダメだと思う。」
そのあとで売り上げ的には、彼女か彼女の上司がトップで自分は最下位でも全然構わないよと伝えると彼女が言う。
「でも、それって癪じゃない?」
「そんなことないよ。個人の評価はお金じゃないって思ってるからね」
そう答えてから、彼女の小さな案件を自分が全面的にサポートして売り上げは彼女に渡す約束をした。それから、会社を辞めようかどうか迷ってると言う彼女の相談に乗ってると、彼女に誘われる。
「ていうか、今日お昼一緒に行きません?ここじゃ、話せないしさ。」
「うん、別に良いけど…」
こうして何度目かのランチに出掛けて、食事と会話を済ませた。
そのあと午後になってからも彼女と話すことが多く、彼女と雑談をする。
「今日の服装はオリエンタルっぽい感じだね」
そう聞くと軽くはにかんだ表情をして、「分かる?」と聞いたあとに言葉を続ける。
「あのね、本当は下に短パンみたいの穿きたいんだけど、部屋着とかっぽくなるから辞めたの」
「そうなんだ」
「どうせお客さんのところにも出ないしそれでも良いんだけどね」
そう言ってまた笑顔を見せる彼女。雑談をさえぎる様に仕事の話をしてから、独りごとのように言ってみた。
「遊びに行きたいなー」
そういうと、まさにハッとした感じで彼女が言う。
「忘れてた、美術館。まだやってる?」
何日までなのか覚えてるけど、彼女の前で忘れたふりをして美術館の資料を彼女に見せて言う。
「21日までだって」
「そっか、わたし今週末に『崖の上のポニョ』観に行くことになってるんだよね」
そう心から嬉しそうな顔をして言う。様子を伺ってると彼女から続けるように言ってきた。
「じゃあ、日程の調整してみるね」
その言葉に頷いてみたけど、たぶん既に彼女に忘れられてそうな雰囲気だ。
ぐいぐいと後ろから服を引っ張られる。
「あれ酷くない?」
そう会社の女の子が上司の愚痴を言いはじめる。うんうんと頷いて聞いてあげる。
「もー、ムカつくー!」
そう可愛らしい声でギャップのある言葉を放ちながら、肩を両手で鷲づかみにされる。そして、力を混めたりする彼女。勘違いしてしまう。
そのあとも積極的にコミュニケーションを図ろうと話しかけてくる。
「今度さ、美味しい冷やし中華食べたい」
彼女は以前一緒に食事をしたときの話題をしてきた。冷やし中華はあまり好んで食べない、そう言った彼女に、本当に美味しい冷やし中華を食べたら考えが変わるかもしれないよとアドバイスをした。そのときの話だと感じたけれど、確認のように言葉を繰り返して言う。
「冷やし中華?」
「うん、そう。」
「…?」
「だから、良いお店探しておいてよ」
「…うん、わかった」
探せる自信がなかったけど、言い訳をして逃げることもないだろうと了承する。こういう場面で優柔不断だったり、自信のない様をみせると女の子には嫌われる気がする。
その後も彼女の席の側を通ったときに話しかけられる。
「わたしはずっと思ってたんだけど…、お酒強いんじゃない?」
そう彼女に聞かれる。お酒は得意じゃないと主張していたことを探ってきた。飲み会の雰囲気もあまり好きになれないし、お酒も特に好きではない。
「そうかな?」
「絶対そうだよ。弱かったら、前のときぐらいには飲まないよー」
「じゃあ、試してみよっか?」とは言わず、お酒が飲めると納得させられて会話が終わったけど。彼女はお酒が大好きな人だから、誘われてるのかと勘違いしそうになる。
デートに誘えなかった傷が残っているし、まだ躊躇いがある。冷やし中華のお店を探すのだって、誘って欲しいって合図かも知れないし。なんてことを深く考えていたら、帰り際に彼女が周囲に対して言う。
「おなか減ったー。みそラーメンが食べたい。」
彼女が何を考えているのか読めないから、放っといて帰ってきた。
席に戻ると、自分のデスクに雑巾が3枚置かれていた。回収するのを忘れたから持っておいてと、別の人に言われて放置されている雑巾。それを見た彼女が言う。
「何で3枚も雑巾あるの?」
「いや、持っといてって言われてさ」
「ふーん」
「虐められてるから…」
そう冗談で言ってみる。するとちょっと悲しそうな表情を見せる彼女が姉のような口調で強く言う。
「これ置いたのあの人だよね?」
「うん」
「虐めじゃないよ?そういう人だから」
と慰めるように言ってきて、彼女が何も言わずに雑巾3枚を回収していった。面倒見が良い、というか無条件に優しい人なんだな。
「Softbankって2年間契約しなくても機種変って出来るんだっけ?」
彼女の携帯を指差して言うと彼女は答える。
「うーん、たしか出来ないと思ったよ」
「そうなんだ、何か勘違いしてた」
「どうして?」
「2年も使ってるとさ、飽きない?」
「うーん…」
一通り過去を思い出すように考えてから、続けて彼女が言う。
「そうでもないよ?」
「そう?」
「あっと言う間だよ。気付いたら2年くらい使ってる感じ。」
「そうかな…」
納得のいかない様子を彼女に見せていると、彼女が指をこちらに向けて言った。
「自分もそうでしょ?」
「あ、そういえばそうだ」
上京前からずっとWILLCOMを機種変更すらせずに使っていた。彼女は優しげな表情を浮かべ、さらに質問をしてくる。
「大事なものは長く使うタイプでしょ?」
「大事なもの」が「恋人」に勝手に脳内変換されて、「大事な人とは長く付き合うタイプ?」と聞こえた。そこで、彼女の言葉を繰り返すように使って答える。
「大事なものは、長く使うタイプだね」
「うん!」
そう大きな笑顔で答える彼女。
でも、先週機種変してWILLCOM 03に変えたんだ。ごめん…。
「彼女って…いる?」
「いないよ、どうして?」
今までいたことがないから、質問されることに警戒心を持ってしまう。コンプレックスというか、女性恐怖症の部分が知らずに出てしまい挙動不審になる。それが今までの自分。
そして怖がる必要がないことに気付いてからは、攻撃されるとしても弱い部分を素直に見せられるようになったと思う。
女の子の雰囲気やニュアンスを察知する能力は桁外れで高い。本当に些細な間があるだけで、意味を感じ取ってしまう。見抜くために、仕草や目の動き、声のトーンだとか、その人のキャラクター性まで考慮する。
その機能が全ての女の子に搭載されている。そして、女の子みんなで感覚を共有している。
“1人の女の子と仲良くなることは、他の大多数の女の子と仲良くなることと同じ”
自分の経験から言うと、同じことを言えばどの女の子でも似たような回答をしてくると思っていて。
女の子同士は感覚を共有しているから大差がない。だから、特定の女の子から見た自分のキャラクター性は、他の女の子からも同じように見えている。
「キミっていじられ系のキャラだよね」
そう言った女の子からは「弟タイプ」に見られていたし、他の女の子からもからかい易い印象だったんだと思う。その感覚、そういったキャラクター性を今の会社の女の子も同一の印象を持っているに違いない。
“自分勝手なぐらいのほうが女の子にとって心地が良い”
気を遣って合わせているだけの異性は面白みがない。以前、何でも合わせる女の子に会ったことがあるけど、主張がなく愛想笑いが多かったし付き合いたいとは思わなかった。変に気を遣い過ぎると、ウザいと思われて恋人候補からははずされてしまう。
自分勝手で、ある程度の気遣いが出来なくても魅力があればフォローしてくれるし、何より女の子は付いていくことが好きみたいだ。
“女慣れしていない人は異性として意識し過ぎなとこがある”
デート。それは男が言うことじゃなく女の子が判断すること。自分にとってデートでも、「友達と遊びに行く」と変換しないといけない。どうにも一般的にデートと言われると女の子はキメて行かなきゃいけないと思って構えてしまう。
たぶん、もっとフランクに。いつも通り、普段と同じ感覚で遊びに行く雰囲気を作るほうが誘いに乗りやすい。たぶん、デートの雰囲気にするのは彼女と付き合ってからの話だ。
だけど、女の子の側に行って呟こうかなって思ってるけど。
「…デートがしたい」
って。
“女の子には恋人がいる人のほうがカッコよく見える
簡単に言えば主体性がない”
女の子は既婚者に弱い。恋人がいる人はそれだけで魅力に見えるらしい。だから、人生に設定されるモテ期なんてのは1人と付き合うと突然周りから言い寄られたりするんだろう。いや、経験ないから知らないけどさ。
親しくしたり、仕事の相談しても、恋人がいる人だからおかしな関係に発展しないと安心できる。今の会社の女の子だって、自分に対しては弱味を見せないように振舞っていた。それが既婚者の上司に対しては、涙ながらに訴えて弱味を簡単に見せていた。
自分も側にいて聞いていたけど、頼りにされていない自分。そして、彼女の立場を思いやってアドバイスしていたのに全部その上司に持っていかれて虚しい気持ちになった。彼女にはどこか不審に思われていたから、彼女はこんなこと言ったんだろう。
「なんで、わたしなんかにそんなに優しいの?」
“女の子は人のものを欲しがる性質がある”
だから、恋人がいる人はモテる。これが恋愛格差だ。なんてことを大々的に宣言する気はないけど、彼女からは聞かれた。
「名刺くれない?」
あげたけど。他にも色んなものをあげてるけど。でも、自分はもらってくれないんだね…。そもそも、あげるものじゃなく奪えよってことか。あげてあげて、さらにあげてから全部奪いとる。これが恋愛の仕方なのかな…。
「彼女って…いる?」
「…。」
「パスタ、食べたくない?」
そう会社の女の子に聞かれて、今週2度目の一緒のランチに出掛けた。午前中から彼女に積極的に話しかけたり、アドバイスをしたのが良かったのか、誘われるときのタイミングは優しくしたあとか事件があったときに多い。
パスタを食べながら子供の頃に親が作った料理の不満を語っていて、彼女にこう言う。
「だから、おかしな料理ばっかり食べさせられたよ」
「そうかなー?」
「有り得ないものとか料理に良くはいってる…」
それに彼女は頷くように目で合図して、パスタを口に運ぶ。そして、口の中のものを片付けてから言う。
「キミの奥さんになる人は大変だね」
なってくれますか?
そんな互いの距離を近づける出来事があって帰宅直前。暇なので彼女に話しかけて、たくさん質問をしていた。
「じゃあさ、兄弟で上と下ならどっちが欲しかった?」
「うんとね、わたしはお兄ちゃんが欲しかったかな。」
「そうなんだ」
「そうそう、親に『お兄ちゃんが欲しい』って言って困らせたことがあったよ」
「自分の場合は逆にお姉ちゃんが欲しかったな…」
そう言うと、妙に納得した様子を見せる彼女。そして、ビシッと人差し指を立てて言う。
「そう!年上の異性を求めるのって、わたしと一緒の考えだよ」
彼女は双子で、姉妹2人で同棲している。けれど性格が合わないらしく自分が面倒を見ているようだと愚痴を言っていた。だから、頼れる兄的な存在を欲しがっているんだろう。
続けてこんな話を切り出してみた。
「じゃあさ、年上好き?」
ドキドキしながら聞く。どういう反応をするのか注意深く観察しようと思う間もなく、彼女は答える。
「年上好き!」
「…」
あまりに堂々と宣言されたものだから、言葉に詰まって間が空いてしまう。そこで、彼女がさらに言葉を続ける。
「まあ、楽だからね…」
自分が彼女の年下である以上、恋人候補にはなれない。
だったら、年上と付き合っちゃえば?
そう思って突き放してしまう。こうして、開きかけた心の扉は鈍い音を立てて再び閉ざされてしまう。
彼女が理想とするタイプは熱血な感じで、佐藤隆太が好きらしい。その若々しくてエネルギッシュなイメージと、逆に年上で彼女を優しくエスコートしてくれる今の彼女の上司みたいなイメージ。
その相反するタイプを求める彼女は、一体どんな恋人を理想としているのか…。さらにそれに対して自分がどういう位置にいるのか。
女の子は基本的に年上好き
それは、リードされたいから。従ってる方が楽だから。
「わたしは好きな人は追っかけるタイプだから…」
そう言う彼女が、年上の恋人にくっついていくような姿は容易に想像ができる。彼女の理想に近づけない。
つらい思いをするだけなら、もういらない
そうして、彼女との話を中断するように言う。
「帰っちゃって良いかな…」
ウンと頷いてから表情を読むように目を合わせてくる彼女。それに同じように頷く合図を返す。
「じゃあ、おつかれさまです」
そう周囲に対して言うと、彼女が寂しげな表情をしてつぶやく。
「帰っちゃうの?寂しい」
一日で彼女に対する気持ちがいったりきたりの、駆け引きばかりしている。好きなのか、好きじゃないのか互いの気持ちの探りあい。こういう時期が恋人と付き合う中での一番楽しい時なのかもしれない。
いや、恋人がいたことは無いんだけど…。
今の会社の女の子は同じ職種でほぼ同年代。そういう女の子と初めて出会った。彼女に仕事を教えることもある。仕事ができる人、仕事に熱中する人は女の子にはカッコよく見えるらしいし、仕事でこの人に敵わないと思わせることが恋する気持ちにさせるのかも知れない。
だから彼女に仕事ぶりを理解してもらわないとダメだけど。
「女は『仕事』『趣味』の他に『子育て』があるから、全部をこなすことは難しい」
そんなことを結婚した女の子は言っていたし、『趣味』と『子育て』を両立させて、『仕事』の部分だけは恋人に託す。恋人は彼女自身の夢をかなえる存在であることが大事なんじゃないか。
女の子は恋人に対して自分自身を投影させていて、
好きな人は彼女が男であった場合の自分自身なのかもしれない
今の会社に対する期限を決める。ここは色んな意味でダメだ。戦場で後ろから撃たれるような会社だし、学べるようなことは1つもない。いや、女の子に接するノウハウや人間関係の酷さは学べるけど…。
9月10日まで。そういう期限を付けなきゃ、くだらないことで無駄な時間をすごしてしまうだけだ。それまでに今の会社の女の子も辞めてしまうだろうし。辞めるまでに彼女に対してアピールするかどうか。
彼女は昨日、あたらしく配属された上司と明け方まで飲んだらしく前日と同じ服装で会社にいた。
「昨日飲んでたって分かる?」
そう朝に聞かれ、
「顔では分からないけれど、服装で分かるよ」
そう答えた。やっぱり女の子は年上で既婚者みたいな余裕のある大人の男性が好きらしく、もう性欲直結みたいなのはダメ。そして自分はその上司を評価していない。だから、余計に気に食わない。
じゃあ、上司に助けてもらえば?
自分が必要とされていないと感じた途端に冷たくなるタイプ。そうしてクールに振舞っていると、彼女に声を掛けられた。
「今日はお昼どこ行くかって決めてる?」
「うーんとね、カレーでも食べに行こうかな。」
「あのさ、良かったらつけ麺食べない?」
以前一緒にいったお店かたずねると正解だった。「良いよ」と答えてOLとランチ。自分の夢だったことが日常的になると喜びもあまり無くなる。もしかしたら、自分が求めている恋人もその程度かも知れないと思う。
彼女と食事をしながら会話。
「それで、わたしは土曜日とかずっと家にいたよ」
「家にいて会社の悩みとか考えてるの?」
「うんとね、何してるかな…。何回か寝たりする。」
「ふーん、バーゲンとかは行かないの?」
「行く予定だったんだけどさ」
「もったいないね」
「少しね」
「じゃあ、やっぱり美術館とか行く?」
と、デートの約束の話題を復活させてみる。
「あ、そうね。忘れてた、まだやってる?」
「うん、20日くらいまでやってるんじゃないかな…」
忘れる程なら、気があるようで無い。さらに質問を続ける。
「花火とか見に行くことある?」
「あんまりないね」
「夜店とか好きそうだよね?」
「うん、結構好き」
「でも行かないの?」
そう聞くと彼女はこちらを見つめるようにして言う。
「一緒に行く相手がいればね」
これは…。
「オレじゃダメか?」
そういうことを言うでもなく、「そうなんだー」ぐらいで流すんだけど…。
女の子はデートとかに付き合うのは面倒だと考えているけど、話を合わせてデートをしてくれる気もする。そこで初めて恋人としての評価をされる。
それまではどんぐりの背比べ。
「誰かをいじめてないとダメな連中なんでしょう?それは、自分がいじめの対象になっちゃうから…」
「うん…」
「今はそのターゲットがわたしってだけでさ…」
「…」
前々から周囲の彼女に対する言動がおかしいと思っていた。たぶん自分は、それを回避するためにアドバイスもしていたと思う。けど、この問題の根底はもっと深いところにある。
今日だって彼女に関係のない案件で彼女が一方的に責められていた。心配になって彼女に話を聞きに行く。
「だい、じょうぶ?」
「うん、平気。」
「本当に?」
「うん。もう考えないことにしたから…」
「…。」
会話の間…。もう何て彼女に言えば良いのか分からなくなる。数秒後に彼女に言う。
「考えないっていうのも違うと思うけど…」
「でも良いんだ。わたしが考えても仕方のないことだし」
「だけどさ…」
「心配してくれるだけで良いよ」
そう笑顔を浮かべて話す彼女。でも、自分の頭の中では「違う」という言葉が延々とループしているのに、上手く言葉に表現できなくて何も言えなくなる。そして、大きくため息を吐く。その様子を彼女が笑顔で見ていて…。
自分が何をすべきか、どうすれば改善されるのか、いくら考えても分からなかった。
「何とかしてあげたいんだけど…」
「でも、いいよ。何をやったとしても、あの人たちは変わらないから…。」
もう彼女はあきらめているというか、彼らに対しては無気力な印象だった。無抵抗で言われるままにされて、責任とか何もかも全部押し付けられて…。最初にそのことを指摘したときに彼女は「分かってくれるだけで嬉しい」と言ったけど、何とかしてあげたいとずっと思っていた。
続けて彼女は言う。
「誰かをいじめてないとダメな連中なんでしょう?それは、自分がいじめの対象になっちゃうから…」
「うん…」
「今はそのターゲットがわたしってだけでさ…」
「…」
今まで「いじめ」という単語を極力避け、それを否定していた彼女が初めてそれを「いじめ」と表現した。そんなことをされても、健気に言うことを聞いて忠実に仕事をこなしていく。その様子を見るたびに苦しくなる。
自分が辞めて、彼女も早々と逃げられる環境にすることが最も確実な解決方法だけど、彼女はそうは考えていなくて、こんなことを言っていた。
「他人に押し付けて仕事を辞めるようなことはしたくない。今まで誰も仕事の引き継ぎなんてしてこなかったし、自分がそれをしてしまうのは嫌だからさ…」
彼女は他の誰からも気付かれないような細かい気遣いをする。そのことに気付いているのは自分だけ。周囲の誰からも認められないのに、どうしてここまでがんばれるんだろうか?
たまには静かに仕事がしたい。なんて、普段から静かだけど。そういう自問自答していたら、後ろに人の気配を感じて振り返る。すると会社の女の子が見ていて…、という話なんだけど、ここまでいつもの日記のコピペみたいだ。
彼女が手を遊ばせながら言う。
「あのさ、崖の上のポニョって知ってる?」
普段の彼女の趣向からは想像できない単語に、浮かんだイメージで合ってるか不安になる。でも、ポニョってあれしかないよな。
「うん、知ってるけど…」
「あれの歌があって、あれがずーっと頭の中でかかってるんだよね」
「歌なんてあるんだ。どんなのだっけ?」
そこで一呼吸おいてから口ずさむ彼女。
「ぽーにょぽーにょぽにょ…」
http://jp.youtube.com/watch?v=b-WBi4Nu2H0
まさか歌ってくれるとは思わなかった。彼女は声が綺麗なタイプだから聞き惚れていると、照れるように彼女が歌うことをやめて話し始める。
「…っていう歌なんだけど、知ってる?」
「いや、分かんない」
その話の流れで彼女の好きなジブリ作品ベスト3を聞いてみた。
「えっと、何だろう。風の谷のナウシカと…、あと紅の豚。…あ、トトロも良いよね。」
そういう話を聞きだしながら、何かキッカケを作ろうと考える。そして彼女に問いかける。
「じゃあポニョはさ、観に行くの?」
「うん、たぶんね。わたしは早く観たいし。」
「ああいう映画って男一人じゃ観に行けないんだよね…」
「じゃあ、一緒に行く?」
とか、そういう妄想をするだけで実際何も言えなかったけど。美術館に、花火大会に、映画館に、食事に…。とにかく夏のイベントに誘ってみたいんだけど女の子とデートしたことないし、どんな順序が良いのか検討もつかない。
それに、自分が理想とするデートって中学生レベルのままで止まっていて。そんな基本的なデートコースを年上の女の子が経験してないはずがない。そのことで互いの距離を感じて、自信を持って「行こうよ!」と誘えない。
毎日のように会社で会ってるし、わざわざ休日に会わなくても…なんて思う。
付き合うまでのことも難しいけれど、出会うことも難しいと思った。
いくら整髪料つけて身だしなみ良くして、ファッションに気を遣って清潔感をアピールし、さらに香水を軽く漂わせていても、女の子に出会えなければ意味がない。相手にされずに落ち込み、逆に自分を極限まで磨き上げることで逆に女の子に近づき難い印象を与えてしまう。
自分の性格を自分で認めてあげれないから、自信がもてない
今まで、自分はこんな性格じゃないと思い込んでいて、自分を認めることが出来なかった。自分の性格を認められないから自信がなかったんだと思う。
単純に女の子のいる場所に身をおく。そして自分の性格を認めて自信を持つことが出来たら意外とすんなり恋人が出来るのかも知れない。まあ言うのは簡単だけど。
もう自分のために努力することは限界かも知れない。それよりも他人のための努力をしたいんだ。
「わたしも好きな人の前なら女の子らしくなりますよ」
会社の女の子がそんな話をしていた。彼女の好きな人になるとき、最も自然な形なのが友達からの発展だと思う。最初からデートなんて言うのは良くない。まずは友達にならなくちゃいけない。社外に誘い出す用事を作ったり、彼女の興味ありそうなものに誘ってみる。
「それで、今度さ」
「うん、何?」
「外で話さない?社内じゃできない話とかしたいし…」
彼女は転職を考えていて、次に受ける面接の対策なんかを一緒に考えた。そんなきっかけで誘ってみた。すると彼女は躊躇無く言う。
「そうだね」
で、華麗にスルー。具体的な話に進んでない。彼女は、すぐにでも辞めたいと考えている。それが彼女にとっては良い事であっても、会えなくなってしまうことは悲しい。しかし、こう言われたときもある。
「キミがいる間は続けようかなって思う…」
これは、リップサービス…?
彼女とどういう関係になるべきか探りをいれる。
「周りは結婚してたり、する?」
「するよー。」
「そうなんだ。」
「そうそう、もう小学生の子供がいるって子もいるよ。」
もう、フリーの女の子を紹介してとか言えるレベルじゃない。恐るべし、年上。彼女もそんな周りを見て焦ってる様子でもないから、アピールしていくことが難しい。
とにかく無理やりにでも誘っていくことでしか、可能性を見出せない。
「わたし前に黒い浴衣着たことがあってさ…」
「うん、似合いそうだね」
「でも、その時の彼氏からはあんまり受けが良くなくてね」
と、そんな話をされた。
「その黒い浴衣着てさ、今度花火とか一緒に行かない?」
その場でこう上手く言えなかったから、次の機会を見て言ってみることにしよう。
会社の女の子と話していると、転職する活動をしているものの上手くいかず悩んでいるらしかった。それはもう優しさでカバーするしかない。
「じゃあ明日、アドバイスするためにいろいろ持ってくるよ」
そう言ってみた。そうは言ったけど会社内で転職相談はできないから、実際持っていっても仕方がない。だから、週末に社外で会う口実にすることを思いつく。これは「会社の人」カテゴリーを抜け出すチャンスかも知れない。
「教える変わりにデートしろ」みたいな取引するのが罪悪感に感じるのだけど、そういう部分の性格も改善していかなきゃ恋人なんてできないのかもな…。
女の子に優しくしているだけじゃモテないらしい。
おそらく会社の女の子からは異性という目では見られていない。どこか境界線があって、「会社の人」のカテゴリーに分類されている気がする。このカテゴリーからは抜け出さなければならない。だから、彼女に優しくしているだけじゃダメみたいだ。
そこで彼女のことを探ってみようと、彼女が話しているときに聞き耳をたててみた。すると、彼女から話し始める。
「今は別れたんですけど、前の彼氏とデートして」
「どんなところに行ったの?」
「ディズニー行ったあとだったかな。そのあとでドライブして夜景見たんだけど、夜景がスゴいって思えなくてさ…」
「ふーん」
「あんまり乙女じゃないのかな…」
「やっぱり中身が男なんじゃない?」
「そんなことないよー」
ドライブ。たぶんここがポイントなんだと思う。
女の子は活発な男が好き
では、その活発って何だろうと考えると行動力に近い。友達と遊びに行ったり、趣味に没頭して動き回ったり、まあそんなこと。でも、それって付き合う前の女の子の目線からは見えない。ここで『ドライブ』という単語が注目される。ドライブには車が必要だということ。
『車』は『行動力』の象徴である
車に乗れば道の続く限りどこでも行けて、行動力が抜群にアップする。ドライブするようなアクティブな男、これが魅力的に見えるらしい。それだけで連れ回されたくなる相手に変わる。
世の中の男性を2つに分けるとすれば、車を持つものと持たざるものだ
車を維持するにはお金がかかる。つまり「車を持っている」だけでステータスになる。やっぱり、電車でデートしようと考える男はモテないらしい。いや、もうキッパリ言おう。
『車がない男は彼女が出来ない』
これ。車が買える年齢にならないと、どうも彼女は作れないらしい。「デート行かない?」なんて大人は聞かない。「ドライブ行こう!」と言えない男はダメなんだ。
これで恋人が出来ない理由がハッキリした。
理想では、「お金がなくてもお互いで支えあって…」という考えがあったけど、そういう女の子には生涯かけても出会えそうもない。すこし現実に失望した。