朝帰り
やってしまった…。
ことの発端は会社で周囲が雑談していたこと。自分とか彼女とかは仕事に追われていてるのに、周りが騒がしいものだから、彼女に声を掛けにいく。
「今って忙しい?」
「うんと、すこし重なってるくらい。」
「大丈夫?なにか手伝おっか?」
「今のとこ大丈夫だよ。」
互いに目で合図して、ウンウンと頷きあう。そして、何かを言おうとしている事に気付いたのか彼女が言う。
「どうした?」
「なんかさ…」
と、騒いでるほうを指差してから言う。
「会社なのに、学校みたいに騒いでるね。集中できなくない?」
ウン、と大きく頷く彼女。
「だから、休憩しにきたんだけど」
「わたしも休憩したいから、下に行く?」
そう言われて、2人でエレベーターを使い会社を出て話をした。他愛もないような会話をしてから、会社に戻るとまだ雑談で盛り上がって馬鹿騒ぎをしていた。ほんとくだらない連中だ。
「今日、仕事終わったら飲みに行きません?」
前日に言ったことを気にしてくれていたのか、そう彼女に聞かれた。そして、彼女と自分。上司1人を交えて居酒屋に行くことになる。
「わたしの周りで自活している男の人っていなくてさ…」
「そうなの?」
「うん、いい歳して実家に住んでたりする男が多いよ。それで自分はお金持ってるって言って、そういうのが格好悪くみえて」
そういう話をする彼女。たぶん恋愛話とかから発展してきたんだと思う。酔いもあってあまり覚えてないけど。
「わたしも、何で実家出て暮らしてるの?って聞かれることが多いんだよね。だから逆に男なのに実家で暮らしていて恥ずかしくない?とか思っちゃう」
彼女の話には共感できる点も多くて、そのあとに自分の上京の話をすこしした。すると、興味深そうに聞いてくれる彼女。その話が終わると彼女が言う。
「今日は言いたいこと言った?」
普段はあまり自分のことを話すタイプじゃないから、もっと聞き出そうとしてくれたんだろうか。
「まだ、少しあるけど」
「全部言っちゃいなよ。じゃあさ…」
そう言ってから彼女は小さな両手を広げて数字の10のような形を作って言う。
「今日は10のうち、0.5くらい言ってみない?」
自分では2~3くらい話したと思っていたので、彼女にそう見られていたことに少し落ち込む。それを忘れるようにお酒を飲む。
「わたしとキミって、趣味とか全然違うけど仕事で繋がってるから考えは合うよね」
「あるね。よく同じことを考えてたりする」
そういう話をしていると、上司が嫁との出会いを語り始める。それが今の自分と彼女の関係みたいに聞こえた。そういう話のあとで彼女の元彼の話とかがあり、付き合った経験がないため会話に混じれないから、もっとお酒を飲む。
そういうことを繰り返して店を出たのが朝。
上司が別の駅に歩き出し、自分は彼女と一緒の2人で駅まで歩く。
「わたし、実はあんまり酔えてない」
「それって心配ごとが多いから?」
彼女はあくびをしてから、ウンと頷いた。具体的にアピールするような話などもなく、そうこうしてるうちに駅についた。彼女が言う。
「電車動いてるかなー」
「うん、たぶん大丈夫だよ」
「わたしさ、仕事終わるの遅くて責められてるのかな」
飲み会の前に予想以上に時間がかかったことを責める彼女。極端に弱気な様子を見せる。それが不思議で仕方なくて、全然自分を責める必要がないと強く言う。
「たまにわたしは家で悔しくて泣いたりもするんだ」
「でもさ、絶対に泣かないみたいなこと言ってなかった?」
「そんなことないよ」
そう飲みながら言っていたことを思い出す。絶対に人前では泣かないと強がっていても、たまに見せる凄く弱気な普段の様子が浮かんだ。
電車に乗って彼女からガムをもらう。寝てしまうからと言って一緒に席に座るのをやめて立ったまま彼女に話しかける。
「あのさ、月曜日のことなんだけど…」
そう言うだけで察しの良い彼女は一瞬で美術館に行くことだと理解する。頷く彼女に対して続けて言う。
「日曜日に電話するから」
「…うん」
「月曜日に愚痴は言わないようにしようね」
そう言うと、できるかなと不安そうに呟く彼女。駅について、「お疲れ様でした」と妙にかしこまって言われる。それをスルーするように「帰れる?大丈夫?」と心配する。うん、と彼女は小さく言ってから、じゃあねと小さく手を振る合図をする。
その彼女の手を引っ張って…、なんてことが出来ないまま帰ってきたら朝だった。なんだか知らないけど、月曜日は初デートになりそう。ただし、午前中だけなんて条件付きだから、デートじゃなく本当にただ一緒に美術館に行くってだけなんだけど。
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