karin: September 2008アーカイブ



それは昼休みの時間で、お腹が減るのを仕事をしながら待っていた。そこまではいつも通りだった。あの事件が起こるまでは。



会社の女の子とその上司である愛称パパが、何かこそこそと話しているのが聞こえた。特に関係ないだろうと聞き流し、社内恋愛の気味の悪さについて考えを巡らせていた。もしも自分と彼女が付き合うとして、それを周囲から見ればすごく異様な光景であるに違いない。




“公私混合はダメ!絶対!”




そんな行き当たりばったりの結論を出して満足に浸っていたら、彼女とパパがいないことに気付く。コンビニに行ったか、ランチに行ったか、さっきの彼女とパパのこそこそ話しを思い出していた。ここからはもう思い出したくもない現実に変わる。



エレベータを使い階下に降りて、降り止まない雨の様子を見てうな垂れた。



午前中、彼女の仕事を見て言った。



「なんだ、全然出来てるし教えることなかったよ。これは余計なお世話だったね。」



彼女に渡したサンプルを指して言う。



「まあ、時間もあんまり無かったからね…」



彼女はプロジェクト全体のことだと勘違いした。そのプロジェクトはそれほど切羽詰ったスケジュールでもないし、彼女がパパに教えてもらっていたことも知っていた。にも関わらず、断る理由を時間にしたこと。これが彼女の大きな間違いだ。時間は残念ながら湯水のようにあったし、それでも彼女はパパしか頼らなかったじゃないか。



暗い気分を降り続く雨に重ねながら、意を決して外へ出た。



傘をさして店を探すために歩き始める。すると前方から歩いてくる人の群れに、どこかで見たような色の服装があることに気付いた。遠くから見て分かったのは、1つの傘に2人で入ってること。距離が近付くに連れて、今朝の彼女が着ていた服の色とパパの服装をハッキリと思い出し、前から向かってくる2人と相違ないことにも気付いた。



コンビニ帰りだと分かっていたし、普通に挨拶する気で歩いていた。2人とすれ違う距離の数十秒前、ある一点に気付いた。




“なんか、肩組んでね?”




いや、待て。よく見るんだ。あいあい傘してるから、反対の傘に手が伸びて…、違う。



それは2人のビニール傘を通してしか見えなくて、ハッキリとは分からないけれど、近付くにつれて分かった。彼女の腕がパパの脇の下を通すようにして抱き付いた状態で歩いている。パパの腕も彼女を抱き寄せるようにして寄り添って歩いている。




…!!!!!!




声にならない声を出すように、瞬時にパニック状態に陥る。その時には2人とすれ違うまでの距離は数秒もなかった。瞬間的に、脊椎反射のようにサッと傘を前に倒し、2人を視界から消した。聞こえるかどうかの距離、雨音で消されるパパの声が彼女と話していた。



「……くん、じゃない?」




それに対する彼女の声は聞こえなかった。すれ違いざま、声を掛けられたら答えようと準備をして、2人の足の動きを見たけれど、まるで二人三脚でもしてるかのように止まることは無かった。まるでドラマのワンシーンですれ違うライバルの演出のようだった。



現実から目を背けるように傘を大きく前に倒して大きく数歩進み、数回呼吸する。足を止め、大きく振り返り現実を見た。



彼女はパパにもたれ掛るように抱きついていて腕をまわし、パパも寄り添うように彼女の腰あたりに手をまわしていた。終わったと悟った。何もかもが暗闇に包まれて、雨音さえ聞こえなくなった。胸に何かが突き刺さり、血の気が引いた。



大きな絶望。



それから、朝に考えていたことが繋がった。社内恋愛の気味の悪さの正体は、彼女とパパの関係。それは誰から見ても、昼間にラブホテルから出てきた中年男と、不倫を楽しむような女に見えた。迷惑だ。最低だ。不潔だ…、ありとあらゆる罵詈雑言を頭の中にいる彼女にぶつけた。




死ねば良いのに…。




いや、もう現実に失望した自分が死のう。理想は簡単に打ち砕かれる。運命は残酷なものだと信じてもいない神様に同情を誘うように言って、運命すら変えられなかった自分を嘆いた。もうダメだと思った。何もかもいらない。全て捨てたいと思った。




それから?




彼女を汚いもののように避けて、聞きたくもない声を必死で聞こえないようにした。それでも、結果的にそれが不自然にみえるのは嫌だったし、彼女への気持ちの中にある小さな何かは捨てきれなかった。



帰りぎわに彼女に本を渡した。こんなことが起こるなんて想像もしていない午前中の自分が、分かりやすく面白く読めるように付箋を貼り、貸す約束をした本。それを彼女の席に放り投げて言う。



「これ読み終わったよ」


「なに?…ああ、それね。」




本を取り、パラパラとページをめくる彼女。そこで本とは全く関係ないことを言う。



「今日、最悪なことがあってさ…」




彼女はそれについて「どんなこと?」なんて聞いてこない。それは容易に想像が出来た。決して自分に興味を持ってくれていないし、好意も、感謝も、会話すら望んでない。渡した本だって彼女が見たいと申し出た訳でもないし、自分が見せたかっただけじゃないか。



彼女は『最悪なこと』について何も考えようともしないだろう。いや、考えても気付かないかも知れない。



こちらを見ず、興味なさ気に彼女は答えた。



「マジで?」




原因はお前だよ!


心得

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“自分に言い訳して生きても仕方がない”



何か都合のいい理由だけを見つけて、逃げていても仕方がない。言い訳をして逃げていても後悔するだけ。口当たりの良い情報だけを信じないこと。




“脳内で誰かと会話しない


勝手な妄想をしない、想像でものを言わない”



口に出すことを恐れない。馬鹿にされることを怖がらない。




“存在しない誰かの目に脅えたりしない”



存在しない他人を想像で作り上げない。他人ばかり気にしていても仕方がなくて、考え方は多種多様なのだから、他の誰かにどう思われようとも、「関係ない」と言い切れる心の強さを持つ。格好ばかり気にしないで、格好悪いことをしても良い。




“他の誰かに期待しない”



誰かがしてくれるだろうという期待を捨てる。自分がやらなきゃ意味がない。




“自分を認めて自分の心に従い素直に生きること”



自分を否定しない、自分を信じる。転ぶときも前に倒れるポジティブさを持つ。




会社の女の子と彼女の信頼する上司、愛称パパとの会話。



「週末にわたし、デートするんだ」


「それは良かったじゃん。じゃあ、良い人見つかったの?」


「うーん…。良い人ではないけど…」




よし、死ぬ。間違いなく死ぬわ。



ハイスコア級のダメージを受けました。これは当分立ち直れそうもない。良い人ではないのに何故デートするのか。デートすら断られてる自分の存在意義。デート以前に食事すらも断られる理由…。



その話のあと、彼女が席に1人でいるときに話しかけた。名前を呼んでみても振り向いてくれない。なので、勝手に用件を伝える。



「これなんだけどさ…あの、持っててもらっても良い?」




そこまで聞いてから振り向いて、あからさまに作ったような笑顔で彼女は答えた。デートのことを何か言われるかと身構えたのか、彼女の反応は良くない。そのあとに会話をしたけど、このところ見事に噛み合ってない。自分から話さずに、聞いてるだけの方がマシだと思えるほどに。



「あのさ、パパは?帰った?」




彼女はそう聞いてきて、もう会話中ですらパパが気になってるようだ。もうダメだ、死ぬか。



週末だけ会ってデートする意味。週末だけ自分を偽るようにして相手に好意を持たせ、気に入ったら結婚しようという魂胆。そんな彼女の考えが全く理解できなくて、それなら普段から一緒にいて理解してる相手と付き合う方が楽だし、半年付き合った後で食い違いが出る可能性を小さくできる。そんな考え。



こうやって恋愛を効率的にしようと考えるからモテないんだろうけど…。




運命的な出会いなんて滅多にないから、近場で出会うしかない。


会社に女がいれば、それがお前の嫁。それで良いじゃん。




そういう話を真に受けて、信じすぎていたのかもしれない。




「会社では彼氏を作らない」


彼女とお弁当 - 迎撃blog




そう彼女は言っていたし、今の会社にいる限り『異性』という目では見てもらえないのかも知れないな。ここは彼女の不安を煽るような最低の作戦。



「会社、辞めるかも…。辞めようかな?」




なんてメールを冗談半分に送ってみようか。それでも、たいてい期待を裏切るような答えをされて、



「まあ良いんじゃない?」




みたいに流される。マジで死ぬしかないな。



そもそも、メール送っても返ってきたこと一度もないけどな!




会社の女の子からの頼まれごとを手伝っていると、彼女に距離を極端に詰められる。状況確認のために席の真横でモニターを覗きこむようにする。女性恐怖症だからパーソナルスペースを広く取りたいのに、それが出来ないもどかしさ。あまり意識しないように心がけ、なるべく彼女を視界から遠ざけていた。



過去の記憶を辿って彼女は探していたファイルを探り当てた。



「わたしって記憶力すごく良いって思わない?」




やれやれ。今回こそ彼女の記憶が頼りになったし、正しかったことが証明されたわけだが、彼女の持つ自信は疑問に思えた。何かを言いかけて言葉を詰まらせた。特別に彼女について語るようなエピソードもないし、まるで反抗期のように彼女の反対意見を言いたいだけじゃないかと感じた。



彼女を見ながら言葉を探し、しばらくの沈黙…。それを埋めるように彼女が首を傾げて言う。



「あれ…、疑ってる?」




感情表現が苦手で、無表情で話している気でいた。心を悟られないように。けれど目は口ほどにものを言うらしく、表情や会話の間で心を読み取られてしまったようだ。



彼女の指摘で感情を抑えることは簡単ではないことを思い知らされた。それと同時に自分が冷酷な感情のない人間ではないことに安心する。疑いの眼差しを向ける彼女に身振りを交えて言った。



「…いや、そんなことないよ?」


「ほんとにそう思う?」


「うん…。今回も、その記憶力が正しかったわけだしね」




その言葉に彼女も満足気に微笑んだ。





「わたしたちの関係って何なの?」


「恋人同士でしょ?」


「じゃあ、恋愛って何だと思う?」


「難しい質問だね」


「ねぇ、答えて」




そう真剣な表情で見つめてくる。



「恋愛は愛という形のないものを2人で育んで…、えっと…」


「それで?」




意地悪そうな微笑みを浮かべて聞いてくる。



「…要は、恋愛もクリエイティブなことなんだ」


「クリエイティブ…ねぇ」




そう納得のいかない様子で見てくる彼女。



「だから、しよっ!」


「ちょ、何?」




抵抗を無理やり抑えてベッドに押し倒すようにする。抵抗をあきらめたように、体から力を抜いた彼女の耳元でこう囁く。



「クリエイティブな行為…、しよ?」




そういう想像力の無駄遣い。




『魂を失わずにグラフィックデザイナーになる本』を読んでモチベーションを高めることが出来た。自分が彼女を作るよりも楽しいと感じること、それがデザインなんだと思う。



恋愛とは異性と関係を作る行為。デザインも作りだす行為は恋愛に劣らずクリエイティブな行為だ。世の中にない、オリジナリティのあるものを作る。そしてそれをたくさんの人に見せる。恋愛は2人とその周囲には見せられるけど、デザインのように世界中を飛び回ることはない。



だから、自分にとってデザインは恋愛よりも楽しい。それしかなくても、彼女がいなくても、デザインのためだったら何でも犠牲にできるんだと思う。



無趣味の理由。



デザインは常に考えること、そして発見することが大事だ。自分が特定の趣味に偏らず、色々なものを『見る』ということに情熱がある。自分が見たもの、そしてその経験をビジュアルに置き換えて言語化し、より多くの人に伝える。



見る、観察するという行為が趣味。だから、「趣味は?」と聞かれても答えられるような趣味がない。それに苦悩したこともあった。けれど、特定のものに偏らず流行を見たり、歴史あるものを見たり…、そういう「デザイン的視点で見る」という理解し難い趣味なんだ。



女の子とクリエイティブな行為もしたいけど…。




「バンッ!バンバンッ!」




銃声がして、振り返ってみるとPS3のゲームだった。プレイしていたのは、正直あまり外見も冴えない人だけれど、画面では凄くスタイリッシュにキャラクターを動かしていた。そのデモンストレーションにも似た画面にギャラリーも集まり、ボスを倒す瞬間には歓声も上がるような勢いだった。



このゲームソフトを作った人たち、そしてPS3を開発した人たち、そしてプレイヤー…。この奇跡のようなコラボレーションで、今映し出されている画面にはオーケストラのようなハーモニーがあった。



なんだかカッコいいな




冴えないプレーヤーも手際よく操作するから、何だかカッコよく見えた。



零の続編をやりたくてWiiを見に行って、XBOX360も値下がりで欲しくなって、PS3でカッコいいデモンストレーションを見せられて、もう何買ったら良いのか全然分からん…。次世代機は、いつもそんな感じで迷ってしまって機会を待たざる終えない。



冴えない人がプレイしてたゲームは『DEVIL MAY CRY 4』で、側に彼女を座らせてスタイリッシュに操作するのもカッコ良いし、『AQUANAUT'S HOLIDAY』を2人でのんびりプレイしたいとも思った。



その彼女という前提がないから買わないけど…。だから次世代機を買う機会、ないなー。




会社の女の子と話すこともないので、朝からずっと黙っている。彼女自身すら誰と話すこともなかった。そんな均衡状態を破るようにして、彼女の信頼する上司である愛称パパが煙草を吸いに外へと向かう。それを察知して、彼女がパパの後を追うようにトテトテと歩いていった。



こういう場面ばかり見てるせいで異常なくらい精神的に疲労してしまう。自分に都合よく考えようとしても、事実だけは変えられない。彼女はパパしか頼りにしてない。



だからもういいんだ。あきらめた。




と、いじける。子供みたいに拗ねて、彼女を拒否する。



「どうして黙ってるの?」


「いや、話すことが特にないから」


「…そう?前はよく話してたじゃん」


「あんまり好かれてないようだしさ…」




そんなシミュレーションばかり考えてた。幼稚な精神、イジワルな態度。嫌われる要因にはなれど、好かれる要因にはならない。女の子に対して子供っぽいことばかりしてる。



あきらめたし、どうでもいいや。




そう改めて思い直し、自分の周囲にどんどん壁を作っていく。勝手にすれば良いじゃん。自分はここに居座る気もないし、次のことを考えよう。自分の人生だし、相手に振り回されなかっただけ良かったじゃないか。そうやって気持ちを切り替えた。



午後になり上司が1人辞めたことで出来た穴。それを埋めるために別の上司から相談を受けていると、彼女が心配そうにやってきて現状を説明しにきた。それまでの会話がなかったことに触れることもなく、仕事の話だけを丁寧に説明していく彼女に対して



「まあ、そんな感じだよね」




そうやる気なさげに答えながら、彼女の顔を見ていた。



あれ、普段より可愛くなくね?




化粧のノリ具合なのか、日頃の疲れからなのか。何だか美しく可愛らしく見えていた彼女が魅力的に見えなかった。なんか、よく見ると不細工じゃね?とさえ思った。



女の子とエッチした後で、冷静になって顔を見ると不細工だった…、みたいな。いや、そんな経験ないけど。手を握ったことすらない。



あまりに好きだったせいか、勝手に彼女の顔を美しいものだと思い込んでいたのか。それとも好きな気持ちを裏切られて、今以上に心が傷つくことがないよう脳が不細工な顔に見せたのか。お酒とか煙草とか夜更かしとか…、そんな彼女の不摂生な暮らしぶりが影響してきたのか。



原因が何であれ、彼女に対するあきらめの気持ちは大きくなった。




「あとで完成したらアドバイスもらいに行くね」




そう言った彼女だけど、一度も来なかったし、無視するようにパパに相談してたこと。これが彼女の考えなんだ。それは『良い男がいたら彼氏を捨てて乗り換えよう!』みたいに見えて不愉快だった。



いや、彼氏の立場なんかじゃなかったけど…。




オール・オア・ナッシング




それまで全力で彼女をサポートしたし、アドバイスもしたけど、彼女はそれを求めてなかった。助けて欲しいとき、自分が頼られれば全力で助けるけど、必要とされてないなら何1つとして助けないし教えない。だから今はナッシング。何もしない。全力出したって相手にされなきゃ意味がない。



一度だけデートしてもらったし、もう思い残すことはない。よし、死ぬか。




S・A~スペシャル・エー~を見ていて、主人公の光みたいな負けず嫌いで男っぽいしゃべり方をする女の子って魅力的に思う。芯が強くて、頑固で、人前で弱いとこを見せない。そして誰に対しても明るくて優しい。



これからそういう女の子と何人くらい出会うことが出来るんだろう。



ファイナルファンタジー。FFは4から始めて11を除く12までプレイしたことがあって、ストーリーはそれほど記憶に残っていなかった。けれど、あらためて断片的なムービーを見るとゲームに与えられた影響って多く感じる。



基本的に主人公はヒロインを守るために行動して、旅を続けるうち次第にヒロインと仲良くなって恋に落ちる。単純だけど、理想の恋愛ってこれだと思う。



だけど現実には襲ってくるモンスターなんていないし、悪の大ボスもいない。ヒロインがいなければ物語も始まらないし、世界の危機を救ったりすることもない。現実で出来ることは女の子と共通の目標のようなものがあって、少しだけ困難なことを乗り越えるくらい。



理想とする恋愛が未熟。空想の世界の理想ばかり追い求めているから前に進めない。もういつになったら恋愛できるのか想像ができない。1人で恋に恋してる感じ。


大嫌い!

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前日のハードワークによる疲れから遅刻して出社する。遅刻した素振りも、申し訳なさそうな態度もせずに普段どおり挨拶する。



「おはようございます」




会社の女の子にも普段どおりの挨拶をすると、彼女は横目で睨むような感じで素っ気なく返事をする。言い訳しようとも思わず素通りしてそれっきり。彼女が迷惑に感じていた以前の同僚は、連絡無しで2、3日休むらしく、遅刻のような不真面目な行為に対する嫌悪感は人一倍強いのかもしれない。



彼女が怒るような失敗をしたとする。



彼女の信頼する上司である愛称パパが失敗したとすると、彼女は「何やってるんですかー」と、仕方ないような叱り方をするとして、今度は彼女より年下の自分が失敗したとする。すると、彼女は呆れたような態度をとる。



普段から失敗なんて滅多にしないし、彼女の迷惑にならないように心掛けている。けれど気の遣い方が間違っているようだ。静かにして態度に出さない謙虚さより、大声で迷惑掛けるようにぶつかっていき、一緒に問題解決したフリをする方が仲良くなれる。



自分1人で解決できるような簡単な問題でも、2人で決めることが大事らしい。




彼女はパパと一緒に仕事をする機会が増え、彼女のフォローをパパがする。だから彼女との接点なんて無いに等しく、無視するような態度でいた。彼女からは一度として頼りにされなかったし、彼女の相談相手はいつもパパだった。



彼女を酷く罵っていた上司。自分やパパが間に入って立ち回り、彼女をフォローしていた。その罵っていた上司が病状の悪化に伴い退社することになった。



「首とか絞めておきたかったな、ギュ-ッて」




彼女が数年に渡る憎しみを微笑みに隠しながら言う。



「復讐するチャンスなくなったね」


「うん。逃げられたみたいで悔しい…」




そう彼女は握り拳を作るようにして言ったけれど、結果的に彼女の敵対する上司がいなくなることで自分の役割も終わりに感じる。彼女を守ること、彼女に教えること。彼女にあげられるもの…、それが完全に無くなった。そうなると自然と仕事への興味も失い、職場の魅力も何も無いつまらない日常へと変貌する。



彼女に嫌われていれば、嫌いな自分を見られずに済む




嫌われているほうが居心地が良くて安心する。頼りにされたいのに頼りにされない自分に苛立ち、環境に上手く立ち回れない自分も嫌いになる。彼女のことを考えるたび、自分が否定されるようで自己嫌悪に陥る。



だから彼女のことは好きだけど、ほんとは大っ嫌い!



恋愛の思い出あきらめちゃえば?





バンブーブレード24話「剣と道」




「自分と同じように相手ががんばってたら、差は縮まらない。勝てっこないのよ」




ライバルに勝つことを諦めて、冷めた態度で言い放つミヤミヤ。彼女を追ってきたサトリが、思わず彼女の手を掴んで言う。



「そんなの勝手に決めないでよ!努力が無駄なんて何で言えるの!?何で決められるの!?私はそんなこと思ったことないよ、たった二回負けただけで諦めて、ふてくされて、逃げようしてるアンタにそんなこと言わせない!辞めるんだったら、勝って辞めてよっ!」




普段から自己主張の少ないサトリが、思わず自分の気持ちに熱くなって言うセリフ。この場面がすごく良い。文章にすると伝わらないけど、声優の人の演技も凄い。自分に共感できる過去があるからか、それとも過去の自分から言われてる気がするからなのか、すごく感動した。青春っぽくて好き。



さておき…。いつもの書くか。



会社の女の子に対して基本的に相手にしない態度をする。朝の会議、座るためのイスが足りなくて仕方なくディレクターチェアに座る。周りは女性陣ばかりなので気を遣う。そうして会議が終わる頃、珍しく彼女から話しかけてきた。



「今日は、イス違うんだね」




それを無視。正確に言えば彼女のセリフと重なるように、彼女自身が呼ばれたからだけど結果的に無視した。



そのあとで、あまりに仕事に没頭していると彼女に話しかけられる。主に仕事関係の話で声を掛けられ、丁寧に説明してあげると彼女はキラキラと目を輝かせていた。こういう彼女も好きだけど、負けない。恋したほうが負けだから。彼女が思わず目を輝かせるほど参加したかった仕事なので、元気付けるように言う。



「こういう仕事ができる機会もさ、すぐ増えるよ!」




彼女は人差し指を向けて、男っぽい口調で言う。



「本気でそれ思ってんの?」




それにウン、と頷いて返事をすると彼女は恥ずかしそうにして、



「ごめん、わたし連休のテンションで言っちゃった」




と照れ笑いをした。



彼女に話題を振ることを極端に避けていると、彼女から席に来ることが増えた。それで他愛もない会話をしていると、一緒に仕事をする機会の多い事務の女性に名前を呼ばれる。たびたび呼ばれるから、普段から何度も会話の邪魔をされている。



年上好きだけど、その事務の女性は対象から外れるくらい。こうして会話を遮るように仕事をもってきて、一通り説明をし終える。すると、会話を邪魔された女の子は不満そうにして声を大きくして言う。



「またそれ?いつもそういうのばっかりじゃん。面倒…」




その言葉に全く無反応でスタスタと席に戻っていく事務の女性。あれ、勘違いしてない?大丈夫?



今の彼女の言葉は仕事に対しての話でさ…と説明しかけて、言葉がまとまらないうちに女子2人に逃げられた。何この女子特有の気まずい空気。死ぬの?



彼女は決して悪気で言ったわけじゃないのに、どこか抜けてて勘違いされやすいタイプだと再認識する。けれど、2人は仲良しだと聞いているし大丈夫だろう…、大丈夫だろうな…。自分には直接関係ないのに、無性に不安になる。





「風邪ひいたかも…」




帰り際、彼女の側を通るときに名前を呼んだりせずに呟く。彼女は振り向いてから、すこし心配そうな顔を見せた。今度は彼女と目を合わせて言う。



「なんか寒くてさ…」


「その格好なのに?」


「うん…。あれ、薄着だね」




彼女の服を指す。そして彼女に質問を投げかける。



「朝とか寒くない?」


「うん、全然平気よ」


「遅刻しそうになって走ったりするから暑いのかな…」


「別に走ったりしてないよ」




そう、すこし微笑んで言う彼女。そのまま挨拶だけして別れた。



積極的に誘ったり、積極的に話題を振ることをやめたら、逆に彼女から話しに来ることが増えた。それまでは全然席に来なかったくせに…。彼女と話したい欲求を我慢することにも疲れるけど、積極的なアピールして構ってもらえないのも疲れる。



“女の子と会話するときは聞き役に徹する”




特に彼女に関して言えば、相手が口を開くと自分が話すのをやめて聞こうとするから、余計に自分が話したいタイプじゃないかと思う。



たぶん、女の子相手に自己主張しすぎちゃいけない。適当に頷いてるだけで十分で、自己アピールとか求めてない。それに女の子の会話を遮って話すのは良くない。お互いで譲りあって、2人で沈黙して見つめ合うくらいがきっと丁度良い。



大抵の女の子との会話は「そうだねそうだね」って同意して、「間違ってない、正しいよ」って言ってれば上手くいく。



…すごく馬鹿っぽいけど。




会社の女の子に紙切れを渡して言う。



「仕事を進める効率的な手順を書いたからさ、ちょっと見て」




じっくり目を通して読み始める彼女。1項目ごとに納得するように頷いていた。それから顔を上げる彼女に言う。



「いつもこの辺が出来てないから、仕事する前に絶対にした方が良いよ」


「わたしもそう思うんだけど、でも時間がねぇ…」




そう反論をしてくる。確かに仕事に集中できる環境じゃないし、何より彼女は負けず嫌いだ。彼女に言わずに勝手に手伝ったとき、彼女はそれに対抗するように自分で考えたものを出してくる。彼女にライバルだと思われているようで、



「教えようか?」




と聞いても、「あとで完成したらね」と断られた。それで返事を待っていたけど、結局頼りにされることは無かった。その代わり彼女の信頼する上司である『パパ』に相談して結果を出したようだ。



アドバイスのあとで彼女は変わらない環境にうんざりだと言った。パパに教えても、結果的に彼女自身が頼られることにイライラしていた。いつか彼女とパパの意見が衝突して喧嘩するような気もするけど、パパは舌を出す姿を見られるなんて失態はしないだろう。それでも彼女の感覚は鋭いから、すでに気付いていながらパパを利用しているかどうかまでは計り知れないけど。



彼女の愚痴を聞いてから、さりげなく聞く。



「あのさ、連休はどうするの?どっか行くの?」


「うんとね、友達が来て、それから友達の家に行く…」




ふーん、なんて答える。さらに予防線を張られるように間髪いれず彼女が続ける。



「あとね、プール行く!」




連休の前に聞いた理由は誘ってもダメだろうと感じていたし、誘うつもりも無かった。けれど、あきらかに3つの予定を言ったことに嫌われている気持ちを垣間見た。単純に下心なしで聞きたかったのに、変に意識されていることにショックを受けた。そして、焦りから度々彼女を誘っていたことを後悔した。



“女の子は『好き』と言われる瞬間や、誘われる隙を見せてくれない。”




誘われ慣れている女の子は断り方も手慣れている。会話の誤魔化し方が上手いから好みじゃない異性のアピールなんて簡単に逃れられるみたいだ。彼女の側で絶望したように呟く。



「仕事も人生も行き詰まったな…」




そう言ってから打ち合わせに出向いた。数十分後に戻ってきて、彼女の側を通るときにもう一度言う。



「行き詰まったなぁ…」


「…人生が?」




そう振り向くこともなく聞いてくる彼女。



「いや、今は仕事…」


「珍しくない?」




『人生』と答えていたら彼女も振り向いてくれたのかも知れないけれど、『仕事』と答えたせいで彼女と目が合うこともなかった。人生の選択は難しい…。



今は彼女のことが好きだけど、嫌われているかもしれない。でもその関係が1年後になったら、どう変わるだろう。彼女の容姿は老いによって確実に衰えてしまう。



「1年後でも“好き”って言える?」




自分の中にいる彼女のイメージが言う。答えを見つけ出せずに考えているような素振りで誤魔化していると、さらに追い詰めるように言われる。



「5年後も、10年後も、20年後だってずーっと死ぬまで好きでいられる?そういう覚悟があるなら付き合うけど?」




男の価値は年季によって磨かれて、女の価値は時間によって失われる。すなわち、互いの価値が並んだときに付き合えるはず。こんな考え方は好きじゃないけど、その瞬間にしか恋愛ができない気がしてる。



5年後、10年後でも彼女が好きでいられるのか。ただ自分の寂しさを埋めたいだけの自己満足じゃないのか。ただ彼女と関係を持ちたいだけなんじゃないか。そんな自問自答をするけど、存在しない答えなんて出てくるはずがない。それは恋愛経験がないから。




『彼女』が欲しいという漠然とした理想を求めるより


好きな女の子を見つけて『彼女』にする



こういう考え方で行動してきた。だけど好きになった女の子さえも『彼女』にできなくて、もうどうすれば恋愛できるか分からん。よし、死ぬか。




会社の女の子が、彼女の信頼する上司『パパ』に自慢げに言う。



「今日は久しぶりに会社にスカートはいてきたんだよ」




以前に彼女のスカート姿が見たいと話していたから、何か話題を振ってくるか期待していたけれど、彼女はパパに報告するだけだった。自分からはあえて何も言わない。そういう意地悪をする。



彼女に対して距離をおいていると、今日は彼女から何度か話しかけに来た。以前から彼女のことを酷く罵っていた別の上司が、仕事のトラブルに見舞われて怒られていた。それを見た彼女が嬉しそうに言う。



「わたし、今日は気分が良いんだ」


「どうして?」


「あの人がさ、あんな目にあってるから」




そう笑顔で言う彼女に、そうだねと答える。散々な扱いを受けていた彼女も、最近になって自信を見せはじめ、最初に会った頃の弱気な印象とは違ってきた。それは良いことだし、望んでいたことだけど、それとは別に自分が必要とされてない寂しい気持ちもある。



2ヵ月の間、研修生として年下の女の子がいた。その子が辞める日がきて、全く会話もなかったけれど形式的なお別れ会をする。ただケーキを食べながらお茶を飲むだけなんだけど、参加した人は時間帯のせいもあり、パパと自分を除けば全員女性だった。



それを見た会社の女の子、普段よく会話に出てくる彼女が全体を見回すようにして言う。



「あれ、今日は男1人だね」




彼女の考えでは、パパは男扱いじゃなかったらしい。それから彼女と目が合って続けるように



「キミも女の子っぽいよね」




と、微笑むようにして言う。嗜好がでしょ?と答えようとしたけど、どうでも良くなって彼女と目を反らす。思えば社会に出てからは女の子とばかり話してきたし、その人を演じてみたり意識することで影響を受け、女の子っぽい部分が強調されているのかも知れない。



普段、スカートをはかずに男らしく振舞う彼女。それとは逆に女の子っぽい雰囲気と言われた自分。トランスジェンダーみたいな2人が付き合うことなんて無いだろう。



彼女はケーキを半分ほど食べ終えると、約束していたようにパパとケーキを交換した。それも周りに見せつけるように…。よし、死ぬか。



女の子は頼りにする人にだけ、甘えたり優しくしたりして、言い方は悪いけど媚びる。必要がない人には、それなりに関係が悪化しない程度に親しく振舞う。だから、自分も親しいように演じられているだけなんじゃないか、利用されているんじゃないかと疑心暗鬼になる。



普段から彼女と会話していたけど、積極的に誘って全敗したこと。やっぱり嫌われていたのかな…。勘違いしたまま突き進んで、それを冷たくあしらわれて、やっぱり陰で彼女に悪口とか言われているんじゃないだろうか。そんな不安に襲われる。




女の子にはスネオしかいない



女の子は強いものに媚びる習性があるという意味で使われているらしい。これがあながち間違ってないかも、なんて思った。盾にはならないし、強さもない。年齢も精神も未熟なままだ。



もし本当に全員がスネオなら絶望する。かと言って、男に走る気も無いけど。




お酒の勢いを借りた会社の女の子は、男口調になって言う。



「思ったら言えよ?わたしも感じ悪いとか言うから…」




彼女は以前のことを思い返すようにして言う。


喧嘩する - 迎撃blog



それからは彼女は会社のことを1人で話すのだけど、そのお酒の席で彼女から「空気が読めない人」と言われた。よし、死ぬか。



人との関わり方が苦手で、だからこそ仕事に没頭する時間を過ごしてきた。仕事の能力を高められたのは恋愛だってしてないからだ。けれどそれを理解せずに、ただ「能力があって凄いね」なんて言われるのは苦痛だ。犠牲にしてきたものがあるというのに。



会社の女の子は今では信頼する上司にベッタリで、愛称で『パパ』と呼んだりする。彼女が求めていたのは結局のところ、自身が嫌っていた夫婦ごっこなんじゃないかと思う。


滅入る - 迎撃blog



朝からパパと煙草を吸いに行って20分雑談。お昼はパパと一緒に社内ランチして1時間。おやつの時間に仕事の相談がてらに休憩30分。夕方さらに30分話して、帰り際にまた煙草吸いに行って30分話したり、帰宅前に電車乗る前の一服でさらに、さらに…。



そうやって、ずーっとパパと話してる。もうダメだな。死ぬわ。




“彼女が頼りにしてくれれば、本気を出す”



そう相変わらずのように考えだけ先行していたけど、それは結局『明日から本気出す』と言うような、いつまでも出すことのない本気と同じ意味だったんだなと、ダメな自分に気付く。本当に彼女から頼られたら傷つくのか怖くて逃げ出してしまうかも知れない。



彼女が愛想尽かして、パパのもとに行くのも無理ないかなと思った。女の子の前だからカッコつけてるように見えたのかも知れないし、何より頼りになるようなタイプじゃない。



恋愛はあきらめるかな。




なんて冷めた気持ちでいるのに、心を探るように言葉を探し会話を求めてくる彼女。何か問題が起こると心配そうに側に来て様子を見に来る彼女。



もう放っといて突き放してくれたら良いのに、女って面倒だ…。




会社の女の子の手伝いをしながら、それ以上のことはしない。優しくはするけど、雑談の相手とか仕事の相談には一切関わらず、言われない限り行動しないと決めた。それから彼女は急ぎの案件を頼まれ、それを頼りにする上司に報告をしていた。



頼りにされてないし、何もアドバイスしない




そういう態度で全く関わらない気でいた。すると上司が突拍子もなく言う。



「じゃあ、その件は彼に手伝ってもらえば?」




数分後、彼女がこちらにやってきて、よそよそしい言葉遣いで言う。



「今って忙しいですか?」


「ぜんぜん大丈夫だけど…」




それから彼女は淡々と仕事の説明をはじめた。自分が感じている距離は、彼女の思うそれとは全然違っていると思った。だから、彼女と同じ分の距離をとるよう心がけた。



彼女の説明を聞いてから、黙々と仕事を進め、仕事以外の話も一切ないまま仕事を終わらせた。数十分後に再び彼女に呼ばれる。それはこの件に関しての金額の話で、内心では「また仕事の話だけか」なんて寂しく思った。



「大した売り上げにならないけど、そっちで計上して良いよ」




そう彼女が言ったので、その場で了承する。けれど少し考えてから、彼女の席に行って話しかけた。



「あのさ、さっきのことだけど…」


「うん?」


「こっちの売り上げじゃなくて良いから、やっぱり返すよ。そのほうが良いでしょ?」




彼女は売り上げがないことで不安になると言っていたし、彼女の売り上げを少しでも良くしようと提案をする。しかし、彼女は笑顔を崩さないようにして言う。



「でも仕事をしたのはキミだし、売り上げはそっちで良いよ。」


「…」


「ね?」




そう笑顔で促す彼女に対して、無表情でいると彼女が首を傾けるようにして言う。



「あれ、納得してない…?」


「うん」


「うん?」


「…それで良いなら、良いんだけど」




どこか不満を残すようにしてから席に戻った。それを心配してか、彼女はちょこちょこ歩いてきて椅子の背もたれを掴んで合図をする。それに反応して振り向くと、フレンドリーな口調で彼女が言う。



「そんなに心配しなくて良いよ」


「でも、大丈夫?」


「うん、もう慣れたしね」




そう微笑みを残すように言う。それから振り向いて歩き出す彼女。その後ろ姿を見ていると向き直った彼女と目が合う。すると彼女はすこし声を大きめにして、



「でも、どうしても売り上げ悪くなったら、そのときは言うから」




と言われた。けれど彼女は、困っているときにも何も言わず1人で抱え込むタイプだから、たぶん言われることは無いだろうなと思った。


Want to do

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会社の女の子を何度か食事に誘ってみているけど、全く良い返事をもらえない。というのも、完全に警戒されていて2人きりは無理っぽい。飲み会でも相手にされなかったし、すでに彼女に嫌われているかも知れない。



それで前に『選択肢を用意して誘う』ということを書いた。


情報操作 - 迎撃blog



これを彼女に試してみたけれど、結局どちらもノーと断られてしまう。自分の誘い方も下手なんだろうし、上手くいかない。彼女は頼み込まれると弱いらしいので、何度も誘ってみるのも悪くはないけど言い方を変えてみる。



「一緒にラーメン食べに行きたい」




こうすれば女の子はノーなんて言えない。あくまで希望を伝えるだけ。そういう自己主張を何度か繰り返して、相手をその気にさせる。しかし、あまりに積極的に責めると女の子はひいてしまうらしいので、何か会話をして最後にこれを言い残し、相手の返事を聞かないようにする。



「行かない?」って誘いに対して「行く!」って答えるのは、要するに彼氏の家に上がりこむような行為だから、女の子の言い訳が出来なくなってしまう。あくまで「自分が行きたいから、お前はついて来い」のほうが男らしいし、誘いにのってくる気がする。



いや、恋愛未経験だからわかんないけど…。





「牡蠣は食べれる人?」


「うん。わたしはね、平気」


「こういうのがあってさ…」




そう会社の女の子に小さな三つ折のパンフレットを見せる。良いねと言い合いながら誘わない。そういう嫌がらせ。すると彼女に聞かれる。



「でも、牡蠣は苦手で食べれないでしょ?」


「うん」


「やっぱり、見た目がダメそうだもん」




仕事を進めていた案件で、逐一保存しておく場所が決まっている。彼女はそのことに神経質になっていて、上司が間違えるたびに口煩く説明をしていた。それを隣で聞きながら彼女のルールを守ってデータを保存する。それについて彼女が言ってくることは無かったし全く問題がなかった。



だからこそ、一度は言わなきゃダメかと思った。彼女の側に行き、同じ目線になって話す。



「それ、保存したデータなんだけど問題無さそう?」


「うん。大丈夫だったよ。」


「ほんとに?」




その言葉に頷く彼女。少しの間をおいて、聞き取りやすいように彼女に言う。



「あまり構ってもらえないからさ、保存のルール合ってるか分かんないんだよね…」




そんな風に構ってもらえない寂しさをアピールしてみた。それに対して彼女は、大丈夫と言うだけだったけど。意識してかどうか、それから彼女は多少頼りにしてくれる素振りを見せた。



何度か彼女の相談にのり、自分のことも相談した。



「わたしは洒落た仕事できそうにないな…」


「そんなことないよ、やろうと思えばできるって」


「でも、周りが好きにやらせてくれない気がする」


「だけど今は、好きにやっても守ってくれる人たちがいるでしょ?」




そう言って手を広げる。けれども彼女は不安を残すようにして会話から逃れた。その様子が気になって彼女の側に行くと、ボソボソと周りに聞こえないような声で話し出す。



「この前の飲み会でキツいこと言ったじゃん。でも、わたしが仕事できても周りの人からの扱いは変わらないんだろうなって思ってさ」


「周りに利用されてるよね」


「そう。やっぱり認められないのは寂しいんだよね…」




そう自信なさそうに呟く。以前の彼女自身の言葉を思い出して、元気付けるように言う。



「でも、周りのためじゃなくて自分のためでしょ?」


「そうは思うんだけど…」




それでもつらいと心境を話す彼女。そこから、彼女は現在頼りにしている上司の話を始めた。



「あの人も、良い仕事してれば認めてくれるって言うんだけど」


「うん」


「何も変わらないって思ってさ」


「そうだね、すぐには変わらないだろうけど…」


「変わると思う?」




そう笑いを漏らしながら言う彼女。周りの人の顔を思い浮かべて「変わらないだろうね」と、ため息混じりに答える。彼女は遠くを見つめるようにして言う。



「やっぱり一番酷かった時期を見てないから、あの人には理解できないんじゃないかな…」




彼女自身も全面的に上司を頼りにしているわけじゃないことを知る。それは自分がもっていた不安で、いつか上司が頼りないことが露呈すると思っていた。この彼女の告白を聞いて、少しだけ彼女と近づけた気がした。



そんな話をしていると噂の上司がやってきて話題を切り上げたけど。



その後で彼女に仕事のアドバイスをして、自分のほうが上司よりも的確にアドバイスできたと思うけど、彼女は決してなびいてくれない。そんな関係。




会社の女の子と仕事以外で話さないと心に決めて距離を置く。話しかけられても、そうだねなんて言葉で会話を区切る。そういう彼女を試すような行動をした。それでも彼女からは積極的な姿勢は見られなかったし、子供じみた自分の行為の無意味さにも気付いた。




女の子が話しかけやすい人はモテる




経験上そんな気がしていて、それとは全くの逆のことをしていないか疑問に思った。そのこととは別に、話しかけたい気持ちを無理やり抑え付けることで胸が痛くなる。話しかけるほうが楽なんじゃないかと思った。



普段みたいに好みそうな話題を探して話しかける。彼女も話しかけられた安心感か、それとも暇があっただけなのか、食い付くようにして話題を膨らませてきた。それでも一歩距離をおき、彼女が手を伸ばしても触れられない位置で話した。



けど、そんなに話すこともないし…。




そう思って話題を切り上げた。



それから集中して仕事をしていると、後ろを人が通り過ぎる気配がした。それは振り向かなくても彼女だと分かった。けれど話しかけにくいオーラが出ていたのか、二度三度後ろを通り過ぎる気配から声を掛けられることはなかった。仕事の邪魔をしたくないという理由であれば、それは彼女らしいなと思った。




意地になっている自分




このまま冷たく振舞って彼女から嫌われることはあっても、好かれることはないだろう。話さないことによる不安が原因なのか、相変わらず胸の痛みが続いて再び彼女に話しかけるために側に行く。



「今、話しかけて大丈夫?」


「うん、平気。」


「こういうの作ってみたんだけどさ…」


「そうなんだ」




集中してできた仕事を見せると彼女はそれをじっくりと見るようにして言う。



「うーん…、わたしはここが違うと思うなぁー。」




そうして次々と彼女が楽しそうに問題点を指摘していく。



「こっちも変えない?ちなみに、わたしがやるときはね…」




そう言ってから机の引き出しを開けて、ファイルを取り出し説明してくれた。



「じゃあ、言われた通りにしてみる」




そう答えて席に戻ると、言い残したことがあるかのように彼女が歩いて来る気配がした。振り向くと彼女がいて、わざと冗談だと分かるような表情をしてから口を開く。



「わたしにだって教えられることあるんだからね」




だって。意地張って、かわいいなー。いや彼女に教えられたいことは『仕事以外にも』色々あるんだけど、でもそれって恋人にならないと無理じゃん、みたいな。だって、恋愛未経験だし。



彼女は先日あった飲み会でのことも話題にしてきて、



「あれは3年分のことを言い切ったんだよ」




と、自分に言い訳するように話した。そのことで彼女と話さなかった訳じゃないけれど、彼女はどうしても言いたかったのだろう。



「でも、言いたいこと言えて良かったじゃん」


「わたしもあそこまで言えると思わなかった、相当危ない心境なのかもね…」


「そうなの?」


「うん。だって絶対にあんなこと言えないもん」



体調不良

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「体調が優れないので…、はい。ちょっと遅れて出社します。」



会社に連絡して午後から出社する。前日のことで精神的なダメージを受けていたし、極端に恋愛に傾いていた気持ちを戻したかった。傷を癒すための深い眠りに落ちて、起きたのは昼頃だった。仕方なく準備をして家を出た。



しばらく歩くと会社から連絡がはいる。携帯に出ると、例によって会社の女の子本人の声だった。彼女を忘れようした自分に対しての皮肉のようだ。彼女が心から心配して電話した…、と言うより上司か誰かに言われて仕方なしに掛けている印象だった。



「具合どう?」


「えっと、今会社に向かってます。たぶん、30分くらいで着くと思います。」



体調を心配してくれた彼女に対して、事務的に答えて距離をおいた。



社内では彼女に対して冷たく振舞って、自分から話しかけもせずに仕事だけをする。ただ都合の良い存在となるのは嫌だったし、彼女から話しかけてこないようなら嫌われているんだろう。そういうネガティブな気持ちでいた。好きだった分だけ、それが正反対になって嫌いになる。




妄想




黙々と仕事をしていると、後ろに彼女がいて心配そうに言う。



「どうしてわたしと話してくれないの?…なんかさ、避けてる?」


「いや、いじけてるから…」




不安そうに見つめる彼女から目をそらすようにして、続けて言う。



「普段からそんなに話すキャラじゃないし、話すこともそんなにないしね…」




そう言って白い紙にもやもやとした気持ちを書く。


もやもや



そんな展開を妄想しながら体調悪そうに仕事をしていたけど、彼女から話してくることなんて一度もなかった。体調を心配されることもなかったし、帰りに一言くらい言葉を交わしただけだった。



もう彼女の目を見るだけでも精一杯だし、これ以上傷を負うことはできない。




会社の女の子の中での『頼りになる人』順位ではもう5番手くらいだと再認識した。



アピール以前に、すでに相手にされてなかったようだ。彼女も参加した飲み会の雰囲気は最悪だった。不参加の意思表明も虚しく、強制的に参加することになる。それまで彼女を遠ざけていたことも悪影響を与えた。彼女への気持ちはもう冷め、ただ疲れてしまっただけだ。



上司からは仕事ぶりを評価され、彼女にライバル視される。こんなこと望んではいないのに。そして、彼女へ正当な評価をしても、「そんなの謙遜だ」と睨まれ言葉をなくす。ただ、空気を読むように彼女の頼りにする上司が同じことを続けて言うだけで周りを納得させる。溜め息が漏れる。



自分が同年代よりも仕事ができる(もちろん、自分ではそんな意識ないけれど…)。そう言われる理由には、それなりに犠牲にしてきたものがあるんだと思う。それこそ、日記のテーマでもある『恋愛』。そして、『人付き合い』。自分にとってそれは長い間苦手分野であったし、だからこそ仕事に打ち込んで人より成長が出来ているのだと思う。



そして不器用かも知れないけど、彼女に理解してもらいたくてアピールしていた。けれど、彼女には届かなかったみたいだ。



泣き出す彼女に、彼女を慰めるように頭を撫でる上司




自分が先に手を差し伸べようとするが、女性恐怖症が黒い影を落とし行動に移すことなんて出来なかった。彼女のことが嫌いになる以前に、自分が嫌いになる。コンプレックスだけが心を大きく侵食し、傷も大きく広がる。後悔が残り、行動に対して臆病になる。



彼女への声は小さくなり、やがて届かなくなり、消えてしまう。




ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)

ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)





普通でいること、それは言葉以上に難しい。当然のように人付き合いや、当然のように恋愛ができる人間。仕事の才能より、対人能力が優れているほうが羨ましく思える。



人は配られたカードで勝負するしかない




『仕事』と『恋人』のカード。それを交換したくて行動しても何一つ変わらなかった。明日からも同じ毎日の繰り返し…。これ以上、心の傷が開いてしまうと取り返しのつかないことになる。彼女への関心がなくなれば、仕事する意味すら見失ってしまいそうな環境に今いる。