距離の戸惑い
会社の女の子の手伝いをしながら、それ以上のことはしない。優しくはするけど、雑談の相手とか仕事の相談には一切関わらず、言われない限り行動しないと決めた。それから彼女は急ぎの案件を頼まれ、それを頼りにする上司に報告をしていた。
頼りにされてないし、何もアドバイスしない
そういう態度で全く関わらない気でいた。すると上司が突拍子もなく言う。
「じゃあ、その件は彼に手伝ってもらえば?」
数分後、彼女がこちらにやってきて、よそよそしい言葉遣いで言う。
「今って忙しいですか?」
「ぜんぜん大丈夫だけど…」
それから彼女は淡々と仕事の説明をはじめた。自分が感じている距離は、彼女の思うそれとは全然違っていると思った。だから、彼女と同じ分の距離をとるよう心がけた。
彼女の説明を聞いてから、黙々と仕事を進め、仕事以外の話も一切ないまま仕事を終わらせた。数十分後に再び彼女に呼ばれる。それはこの件に関しての金額の話で、内心では「また仕事の話だけか」なんて寂しく思った。
「大した売り上げにならないけど、そっちで計上して良いよ」
そう彼女が言ったので、その場で了承する。けれど少し考えてから、彼女の席に行って話しかけた。
「あのさ、さっきのことだけど…」
「うん?」
「こっちの売り上げじゃなくて良いから、やっぱり返すよ。そのほうが良いでしょ?」
彼女は売り上げがないことで不安になると言っていたし、彼女の売り上げを少しでも良くしようと提案をする。しかし、彼女は笑顔を崩さないようにして言う。
「でも仕事をしたのはキミだし、売り上げはそっちで良いよ。」
「…」
「ね?」
そう笑顔で促す彼女に対して、無表情でいると彼女が首を傾けるようにして言う。
「あれ、納得してない…?」
「うん」
「うん?」
「…それで良いなら、良いんだけど」
どこか不満を残すようにしてから席に戻った。それを心配してか、彼女はちょこちょこ歩いてきて椅子の背もたれを掴んで合図をする。それに反応して振り向くと、フレンドリーな口調で彼女が言う。
「そんなに心配しなくて良いよ」
「でも、大丈夫?」
「うん、もう慣れたしね」
そう微笑みを残すように言う。それから振り向いて歩き出す彼女。その後ろ姿を見ていると向き直った彼女と目が合う。すると彼女はすこし声を大きめにして、
「でも、どうしても売り上げ悪くなったら、そのときは言うから」
と言われた。けれど彼女は、困っているときにも何も言わず1人で抱え込むタイプだから、たぶん言われることは無いだろうなと思った。
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