彼女の心境
「牡蠣は食べれる人?」
「うん。わたしはね、平気」
「こういうのがあってさ…」
そう会社の女の子に小さな三つ折のパンフレットを見せる。良いねと言い合いながら誘わない。そういう嫌がらせ。すると彼女に聞かれる。
「でも、牡蠣は苦手で食べれないでしょ?」
「うん」
「やっぱり、見た目がダメそうだもん」
仕事を進めていた案件で、逐一保存しておく場所が決まっている。彼女はそのことに神経質になっていて、上司が間違えるたびに口煩く説明をしていた。それを隣で聞きながら彼女のルールを守ってデータを保存する。それについて彼女が言ってくることは無かったし全く問題がなかった。
だからこそ、一度は言わなきゃダメかと思った。彼女の側に行き、同じ目線になって話す。
「それ、保存したデータなんだけど問題無さそう?」
「うん。大丈夫だったよ。」
「ほんとに?」
その言葉に頷く彼女。少しの間をおいて、聞き取りやすいように彼女に言う。
「あまり構ってもらえないからさ、保存のルール合ってるか分かんないんだよね…」
そんな風に構ってもらえない寂しさをアピールしてみた。それに対して彼女は、大丈夫と言うだけだったけど。意識してかどうか、それから彼女は多少頼りにしてくれる素振りを見せた。
何度か彼女の相談にのり、自分のことも相談した。
「わたしは洒落た仕事できそうにないな…」
「そんなことないよ、やろうと思えばできるって」
「でも、周りが好きにやらせてくれない気がする」
「だけど今は、好きにやっても守ってくれる人たちがいるでしょ?」
そう言って手を広げる。けれども彼女は不安を残すようにして会話から逃れた。その様子が気になって彼女の側に行くと、ボソボソと周りに聞こえないような声で話し出す。
「この前の飲み会でキツいこと言ったじゃん。でも、わたしが仕事できても周りの人からの扱いは変わらないんだろうなって思ってさ」
「周りに利用されてるよね」
「そう。やっぱり認められないのは寂しいんだよね…」
そう自信なさそうに呟く。以前の彼女自身の言葉を思い出して、元気付けるように言う。
「でも、周りのためじゃなくて自分のためでしょ?」
「そうは思うんだけど…」
それでもつらいと心境を話す彼女。そこから、彼女は現在頼りにしている上司の話を始めた。
「あの人も、良い仕事してれば認めてくれるって言うんだけど」
「うん」
「何も変わらないって思ってさ」
「そうだね、すぐには変わらないだろうけど…」
「変わると思う?」
そう笑いを漏らしながら言う彼女。周りの人の顔を思い浮かべて「変わらないだろうね」と、ため息混じりに答える。彼女は遠くを見つめるようにして言う。
「やっぱり一番酷かった時期を見てないから、あの人には理解できないんじゃないかな…」
彼女自身も全面的に上司を頼りにしているわけじゃないことを知る。それは自分がもっていた不安で、いつか上司が頼りないことが露呈すると思っていた。この彼女の告白を聞いて、少しだけ彼女と近づけた気がした。
そんな話をしていると噂の上司がやってきて話題を切り上げたけど。
その後で彼女に仕事のアドバイスをして、自分のほうが上司よりも的確にアドバイスできたと思うけど、彼女は決してなびいてくれない。そんな関係。
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