感情観察力
会社の女の子からの頼まれごとを手伝っていると、彼女に距離を極端に詰められる。状況確認のために席の真横でモニターを覗きこむようにする。女性恐怖症だからパーソナルスペースを広く取りたいのに、それが出来ないもどかしさ。あまり意識しないように心がけ、なるべく彼女を視界から遠ざけていた。
過去の記憶を辿って彼女は探していたファイルを探り当てた。
「わたしって記憶力すごく良いって思わない?」
やれやれ。今回こそ彼女の記憶が頼りになったし、正しかったことが証明されたわけだが、彼女の持つ自信は疑問に思えた。何かを言いかけて言葉を詰まらせた。特別に彼女について語るようなエピソードもないし、まるで反抗期のように彼女の反対意見を言いたいだけじゃないかと感じた。
彼女を見ながら言葉を探し、しばらくの沈黙…。それを埋めるように彼女が首を傾げて言う。
「あれ…、疑ってる?」
感情表現が苦手で、無表情で話している気でいた。心を悟られないように。けれど目は口ほどにものを言うらしく、表情や会話の間で心を読み取られてしまったようだ。
彼女の指摘で感情を抑えることは簡単ではないことを思い知らされた。それと同時に自分が冷酷な感情のない人間ではないことに安心する。疑いの眼差しを向ける彼女に身振りを交えて言った。
「…いや、そんなことないよ?」
「ほんとにそう思う?」
「うん…。今回も、その記憶力が正しかったわけだしね」
その言葉に彼女も満足気に微笑んだ。
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