August 2008アーカイブ
「キミってさ、アピールの仕方が上手くないんじゃない?」
キャラクター性は周りの勝手な想像によって作られる。人は安心感を得たいがためにレッテルを貼る行為をする。何を考えているか分からない人や自分が理解できないもの、そういうものが怖いから。
以前、仲の良かった女の子に「話したい」と言ってデートに誘ったことがある。彼女はもう結婚していたしデートではないけど、2人きりで会って、彼女をリードするように良い雰囲気の喫茶店に連れて行った。すると彼女は言う。
「こういうことが出来る人だとは思わなかった…」
キャラクター性なんて相手の勝手な思い込みにすぎない。けれど、自分はどういう人間なのか理解させないと進展も何もないんじゃないか。
周囲をよく観察していると、独り言をする人をよく見かける。急に何か言い出して、周りに対して何らかのアクションを求める。意識しなきゃ声なんて出ないし、絶対に意識してやっているとしか思えない。それを証明するかのように、会社の女の子がいない状態になると、普段独り言の多い上司も黙々と仕事をしていた。
独り言は周りと接点を作り、自分をアピールする手段である
結局のところ、何かを発して構ってもらいたいだけ。そこで「自分はこういう人間なんだ」とアピールできれば良い。他には煙草もキャラクター性を象徴する存在。好きで吸ってる訳じゃなく、周囲の人と会話するためのツールとして吸ってる人もいる。お酒も同様の役割を持っている。
「わたしに話すようにさ、周りの人にもそうしてみたら?」
そう会社の女の子に言われたことがある。自分が興味のある人物としか話さない、そういう態度が彼女からアピールが足りないと言われた部分なのかも知れない。会話なんてしたい時にすれば良いじゃんって思っていたけど、どうやらダメらしい。
明るい人はいない
明るく見える女の子に「明るいよね」と言うと、大抵そんなことないと返される。明るく振舞っているだけで、根は暗いと何度か言われたことがある。だから、いくらその人が明るく見えても「本当は暗いでしょ?」なんて聞いたら、わたしのこと分かってくれる人だなんて思ってもらえるかも知れない。
わざと明るく振舞ったり独り言をしてみたり、お酒や煙草であったり、キャラクター性を作るための何らかの手段を用意しておかないと、『暗い』とか『大人しい』とか、好き放題レッテルを貼られてしまう。自分では決してそんなことないと思っていたとしても。
レッテルなんて気にしないけれど、好きな子からも同じように思われていたら悲しいし、対策をとらないとダメなんだろうな…。どんなアピールするのも自由だし、わりと好き放題わがままにしてる方が女の子受けしやすいのかも知れない。
女の子は好きな人についていくものだから、男はちょっと自己中心的なくらいがちょうど良い
旅行前に会社の女の子が言い残したこと。
「わたし今度、土曜日にスイミングスクールに通うことになったんだ」
恋人探しをしていると彼女は何度か言っているし、こんな話題を切り出されるだけで彼女に恋人ができてしまうかもと不安になる。スイミングスクールで親切な年上に泳ぎを教わったりして、そのままなし崩し的に関係を持って…なんて妄想。
それとも今頃、旅行中の彼女が東京から来た人と偶然にも旅先で出会って意気投合。そのままなし崩し的に関係を持って…なんてことを考えると不安で仕方ない。そういう病気…。よし、死ぬか。
噂によると、
“女の子同士の会話において、特定の異性が賞賛するような話題をされると、話を聞いた女の子からも好意を持たれるらしい”
評価の物差しを女の子は持っていなくて、他人から『良いらしい』と聞くだけで『良いもの』と思い込んでしまう習性があるらしい。女の子の間で人気になると、次々と人気の連鎖が起こって次々と告白されたりするらしい。いや、信じてないけど…。
「わたしは恋人は育てるものだと思っていて、若いときから付き合って自分が求めるように育てるのが良いって最近になって気付いて…」
事務の女の子がそう言った。この女の子とは仕事上の接点が多くて、ほとんど仕事上の話しかしない。第一印象から合わない人と思っていたし、たぶん彼女にもそれは伝わっていただろう。
彼女も恋人探し中で、合コンなどに参加しても良い男がいないと嘆いていた。それで、恋人は育てるものだと考えたようだ。それは自分が以前に考えていたことと似通っていてると感じた。
25歳までに付き合い始めて2年くらい付き合って27歳で結婚
そんな理想はさておき、その事務の女の子からは思ったより好感を持たれている。これはきっと、普段仲良くしてる女の子が彼女と話すときに「良いらしい」という評価で話題をしているから、警戒心が解かれているんだろう。
逆にこれを利用して、事務の女の子に好感を持たれている状態でさりげなく「あの子と付き合いたい」みたいな情報を流しておけば、意中の相手に伝わったりするんだろうか。そして、恋のキューピッド的な役割をさせてみたりしたら…意外といけるかも。
女の子を誘うときは選択肢を用意して話すと良いらしい
今まで誘うときには、「肉食べない?」とか「ラーメン食べない?」と選択肢のない状態で女の子に話しかけていた。これで答えられる選択肢は「行く」か「行かない」か。イエスとノーしかないから成功率が低い。そこでどうするのか。
「今度、お肉食べに行くか、ラーメン食べに行かない?」
これ。誘うとこは同じなんだけど選択肢が増えることで、「どちらかと言えば…」が考えの余地となって、ノーと言いにくくさせる。それにお肉でもラーメンでも、どっちにも行けるって意味で行動力もありそうに聞こえる。
女の子と会話するときには、「何が見たい?」とか「何が食べたい?」と判断させるんじゃなく、常に選択肢を与えて「何かと何かなら、どっちが良い?」と比較しながら誘導していく方が良いらしい。
「わたしがこれやるから、終わったら手伝ってもらうから」
こう言われて会社の女の子に仕事を頼まれた。彼女はそのまま仕事に没頭し黙々と作業をこなしていた。自分も構ってられるほど暇ではなく、手元の仕事を片付けていた。それから、数時間が経って彼女から声をかけてきた。
「さっきは手伝ってもらう予定だったけど、忙しそうならわたしが全部やる?」
「大丈夫だよ、手伝うから」
「わかった」
そう言って席に戻り、また仕事を進める彼女。それからさらに数時間が経って、彼女の様子を伺いに行く。すると手伝う予定だったことまで手を付け始めていて、彼女に言う。
「あれ?もしかして、そこまでやってる?」
「うん」
そう笑顔で頷く彼女。考えるような間を置くと、不自然そうに首を傾けて次の言葉を待ってる様子を見せる。そんな彼女に言う。
「手伝おうかなって思ってたのに…」
「あ、大丈夫よ」
そう言うとモニターに向き直って、また仕事を進め始めた。進行状況を聞くと、間に合うから平気とだけ返事があった。そんな、彼女の後ろ姿に声をかける。
「それじゃ、お昼に行ってくるけど…」
「いってらっしゃい」
「大丈夫?」
「平気、平気」
そう言いながら、全く振り向く素振りも見せない彼女を不安に思い、後ろに立って作業を見ていた。数分か、数分にも満たないくらいの時間、彼女がキーボードを叩く音を聞いてから、独り言のようにシリアスなトーンで呟く。
「俺って、そんなに頼りないかな…」
仕事に対して、そして男としての『頼りがい』を彼女がどう思うか聞いてみたかった。けれど、彼女は向き直る寸前の姿勢で止まり、モニターから目を離さないようにして答える。
「ごめんね、今そういう話できない」
「あ、うん…」
「でも、そんなんじゃ全然ないから」
悪意があったわけじゃないことを簡潔に伝えてから、彼女は話す意思がないかのようにモニターに向き直って仕事を進めた。
「そっか…」
気のない返事をして、お昼に出掛ける準備をして彼女の席を通り過ぎると「待って!」と彼女が大きく叫んだ。振り向くと、彼女がデスクの横から顔だけ出して言う。
「あのさ、おにぎり買ってきてくれない?」
「おにぎり?」
「そう」
「コンビニの、とかで良いの?」
「うん」
「好きなものとか…」
「ほんとに何でも良いよ、任せる」
「少し遅くなると思うけど…平気?」
ウンと頷く彼女。話を横で聞いていた上司が、話に割り込むように言う。
「今からコンビニ行くけど、ついでに買ってこようか?」
彼女は戸惑うように2人の顔を見比べ、迷うような素振りを見せる。そして、こちらの目を真っ直ぐに見てきて言う。
「お願いしても、良い?」
こうして彼女に『おつかい』を頼まれた。普段は一度も頼まれたことがないし、『頼りにしてる』という気持ちを表現するための行動なんだと思う。なかなか、人の扱いが上手い。
それから彼女のおつかいを済ませて戻ると、彼女はまだ仕事をしていて、間に合わないと感じたのか彼女が頼りにする上司に手伝ってもらっていた。その瞬間を見てしまい、間の悪い自分がとても嫌になる。
そうなるなら、最初から手伝ったのに…
そう心で呟きながら、「買ってきたよ」と明るい声でおにぎりと差し入れを彼女に渡した。
そんなことが起きて、彼女との間にある溝だけが徐々に深くなり、彼女は信頼する上司だけを頼りにするようになった。彼女のことは好きなんだけど、彼女の眼中にない自分。このまま彼女は自分の知らない相手と恋愛し、結婚してしまうのだろう…。そんな想像が容易にできてしまう。
すこし溜め息をついてモニターを見るともなく眺めていると、何気ない周囲の雑談から彼女が話題を振ってきて言う。
「キミって繊細だよね」
そうだね、なんて勝手に同調する上司。
繊細なんかじゃなく、それは『彼女のことが好きだから』
そういうことにすら気付いてもらえないみたいだ。
それと、彼女はお昼のおつかい代金を払ってないことにも気付いてない…。そんな思いを残しつつ、彼女は遅めの夏季休暇を使って旅行に出掛ける。
8月中はもう会えない。
会社の女の子があたらしい案件を任せられていたことを不安に思って話しかけてみた。
「それ、できる?大丈夫?」
彼女もすこしだけ不安そうな表情を見せたが、大丈夫と笑顔で答えた。自分ならこうするだろうって方法を彼女にアドバイスして、彼女の言葉を信じることにした。
それでも、ちょこちょこ彼女の席の側を通るたびにモニターを覗きみて進行状況をチェックする。そのまま声をかけて、彼女にどう進めるのかを確認をし「また見に来るから」と伝える。それを、何度か繰り返すと彼女は男っぽい口調でこう言う。
「そんなに、心配するなって。わたしは大丈夫だから。」
そのあと、お昼に出掛けたついでに彼女に見本となる資料を持ってきた。暑い中で、文字通り足を使って色んな場所からかき集めてきて、それを彼女に見せると「たくさん持ってきたね」とすこし笑われた。
彼女に言う。
「ごめんね。でも、資料は多いほうが良いでしょ?」
「うん、ありがとう」
「別に見終わったら捨てても良いからさ…」
そう言うと、ブンブンと首を横に振る彼女。これがかわいい。物を大事にするタイプだからなのか、そんなつまらないものであっても『捨てる』とは言えないらしい。
その後で、すこし回り道をしたけれど結果的に上手くいった。
「でも、ここは表組みにした方が良いんじゃない?」
そう言うと、笑い声を押し隠すような行動をとる彼女。どうやら、ツボに嵌まったらしい。というのも、以前に同じことを言っても彼女があえて無視をしていて。彼女は、頑なに自分の信じることを貫き通した。それを、数日おいて同じことを伝えてきたことが面白かったらしい。
すこし落ち着きを取り戻した彼女に言う。
「ここは、こうしたくない?」
「絶対に違うと思う。わたしは、今の方が好きだけど…」
ここでどう説得したとしても、平行線を辿るだろうと容易に想像ができた。そこで仕方なく折れて、すこし微笑んでから彼女に言う。
「なかなか、頑固だね」
「うん!お互いにね!」
そう言って、悪意が全くない純粋な笑顔で返してくれる彼女。それがすこしだけ、彼女と付き合ってるような感覚に陥った。
最近も彼女の仕事についてアドバイスをすることが多くて、何度か「こうしたら良くなる」というアドバイスをした。彼女が知ってることに対しては、それなら大丈夫と背中を押せる。それでも彼女がどこまで理解をしてるか分からないから、もの凄く簡単なことまで伝えてしまうこともある。
彼女が知ってることばかりアドバイスしていたときに、
「なんか、教えることあんまりないね…」
そう彼女の側で呟くと、何も言わず表情を伺うようにして次の言葉を待つようにされた。すこしの間をおいてから、彼女に言う。
「席の後ろを通るたびに、いちいち言わない方が良いのかな」
すると彼女は無言で大きく首を横に振った。これがかわいい。これをされると、自信の無いことの全てを彼女が全否定してくれるようで自信が持てる。彼女の色んな仕草を見ているけど、それが一番魅力に思う部分かもしれない。
「女の子が大きい手袋とかしてると可愛く見える」
「あー、そうだね。わたしもそう思う」
「ディズニーランドとかでさ、よく大きな手袋とかしてる子っているじゃん」
「うん、いるいる」
「そういうのしてみたら?あの大きな耳を付けたりさ…」
「えー、しないよ」
「行ってみると楽しくて付けたくなるらしいよ?」
そう彼女に聞いてみると、プイッと別の方向を向いてから
「絶対にしねー」
と、不機嫌そうにして答えた。ツンデレ。
彼女は女子だけの学校に通っていて、そのときの話をしてくれたことがある。
「女子校でも宝塚みたいに男役と女役っていうのがあってさ、わたし男役だったんだよね」
そこで上司が彼女に言う。
「前に付き合ってた彼氏の影響で男言葉になったの?」
「そういうのじゃない。それは、実家から出てからだから…」
彼女はときおり男らしく振舞って男言葉を使う。それで強がっているものの内面は弱気なところ、彼女が見せるそのギャップがとても魅力的に見えてしまう。
帰り際になって、週末最後の雑談をしに彼女の側に行くと彼女が聞いてくる。
「今週は忙しかったね?」
「そうだね、死ぬかと思った…」
どこか寂しげで不安な表情を見せ、おかしな会話の間を空ける彼女。それを安心させるように続けて言う。
「まあ、死にはしないけどさ」
「…うん」
すこし表情を緩ませて答える彼女。
その後で他愛のないことを話していると、瞳に焼き付けるように顔ばかり見つめてくる。そんな彼女に質問を投げかけても、半分上の空で何度か「うん?」と首を傾げて、そのたびに同じセリフを繰り返すように言った。
話を理解して聞くことよりも、一生懸命に話をする異性を見ることの方が優先されるように。
もしくは、そういう素敵なことじゃなく、彼女に話しかけるときだけ自信がなくなり、話すことが極端に怖くなる。その結果、他の人と話すときよりも声を張れないことがあって、それが何度も聞きなおしてくる原因になっているのかも知れないけど。
互いの目を見つめているのに、意思疎通ができない状況を不思議に思った。
そんな目で見続けてくる彼女に言う。
「今日は持ち帰って仕事することにする」
「あれ、家に仕事は持ち込まないタイプじゃなかった?」
ずっと以前に一度だけ話していたことを覚えていた彼女に驚いた。
「うん…。でも、やらなきゃ仕方ないじゃん」
そう答えると、『真面目さ』が評価されるように彼女の表情は明るくなった。
今までだと面倒になって「時間がないから」と言い訳をして途中で投げ出したりしたけれど、真剣に向き合うような姿勢を見せることで、彼女に見直された気がする。
女の子は熱心な異性が好きみたいだ。
「声きれいだよね」
そう言って、会社の女の子を誉めてみた。彼女は全体的にトーンの高い、とても耳馴染みの良い声をしている。女の子らしい可愛いソフトさで、周囲の雑音にまぎれると儚く消えてしまうような声質。
そんな声を誉めると彼女は首を傾げるようにしてから、その声で言う。
「そうかな?」
「言われない?」
「うん、そんなこと一度も言われたことないよ」
すこしの間をおいてから、表現を変えるようにして言う。
「でも、声カワイイ」
言い終わる頃に顔を見るようにすると含み笑いをしている彼女。どうしたの?と聞くように答えを待つと彼女は言う。
「じゃあ、そういう声でわたしは他人の悪口とか言ってるんだね」
うんと頷くと、また照れたような笑い方をされる。
「本当に、声カワイイとか言われない?」
「言われないよ」
「電話とかでも?」
「うん、全然」
そっか、なんて答えて納得してから思い立ったように言う。
「あのさ、美味しいラーメン屋さんがあるんだけど、今度一緒に行かない?」
「美味しいラーメン屋さん?」
「うん、今週一度は行きたいんだけど…」
「今週かあ」
そう言ってカレンダーを見る彼女。立てていた予定を考えるように悩むような声を出して、そこから上目遣いをするように言ってくる。
「今週じゃないとダメ?」
「うん、今週が良い」
彼女も行きたいような雰囲気を出すんだけど、どうにも月末の旅行での金銭面が気にかかっているようでOKを出さない。今日、彼女は病院に行き余計な出費があったことを話してくれていたので強引に誘うことはせずに
「無理しなくて良いよ」
と、伝えた。ほんとは、夕食を食べてから、近所を軽くデートするように歩いて、アイスを一緒に食べる予定まであったけれど仕方ない。今回はあきらめる。彼女はラーメンなら『しょうゆ』じゃなく『とんこつ』が良いと言うし、上手く噛み合わなかったとこもあるし…。
女の子を誉めてから誘いだす
こういう方が女の子も誘いにのりやすい気がする。思い付きで声をかけていたときよりも、彼女は具体的な予定の話をしてくれたし、雰囲気ってこうして作るものだと改めて感じた。
8月の旅行。それが終わるまでは、彼女の意識も全部そっちに持っていかれてしまっているし、アピールする間もない。
会社の女の子に実家から持ち帰った粗品をプレゼントしようとすると、彼女はすぐに感付いた様に言う。
「もしかしてお酒?」
頷いて、そうだよと答えると彼女は言う。
「ちょうど、家のお酒切らせてたんだよね。」
「どうして、お酒って分かったの?」
「その大きさで分かるよ」
と笑顔で答えてから、ありがとうと改めて言われた。嬉しそうにお酒を眺める彼女に、さらにアピールをしてみる。
「年下ってさ…」
「うん?」
「年下って言うこと聞いて買ってきてくれるからさ、結構良いって思わない?」
そう言うと、かつぜつが悪かったせいか何度か彼女に聞きなおされた。いや、そうして彼女は何か良い答えを探していたのかもしれないけど…。
「年下、結構良いって思わない?」
「まあ…」
だって。ほとんど相手にされてない。よし、死ぬか!
むしろ、アピールだって気付かなかったなんてことが有り得なくもない。たしかに答えには困るだろうけど…。
そんなことがあった後、一度喧嘩したとき以来で彼女から仕事を頼まれた。
「それで、こんな感じなんだけどさ…」
「うん」
そんな風に無難に受け答えしていた。特に難しいことでもなかったし、彼女も前もって準備をしてくれていたから説明もとても分かり易かった。彼女が言う。
「じゃあ、大丈夫?」
「うん、全然大丈夫。」
そう言って手元の書類を集めて、視線を上げてみると彼女がもの凄い笑みを浮かべていて、首を傾げる仕草をすると彼女はそれに答えるように言う。
「ふふ、今日は質問とかしないの?」
「うん、今日はね」
そう言ってから、彼女に微笑み返してすこしだけ幸せな気分になった。
「お盆に実家に帰ってさ、バーベキューと花火してきたんだけど結構楽しくてさ…」
そう伝えると、彼女は楽しそうな顔をして聞いてくれる。でも自分が言いたいことをまとめ切れず、意味もない無駄話をしそうになるのが怖くて、極端に自信をなくして思わず口に出てしまう。
「まあ、別に大したことないんだけどさ…」
そう言うと彼女は、「全然そんなことないよ」とでも言うように首を大きく横に振る。こういう些細な仕草に彼女の性格の全てがにじみ出ていて、もの凄く魅力的に見えてしまう。そんな彼女ともう少し雑談を楽しみたかったけど、周囲が慌ただしく動いていたし、消極的な気持ちになってしまい言いたいことを上手く伝えられなかった。
帰り前の夕方くらいに彼女を誘ってみた。
「ねえ、帰りにさ…ラーメン食わない?」
すこし考える間があって彼女が答える。
「さっきお菓子食べたし、お腹減ってないからやめとく…」
このところ、ほとんど毎日のように誘っているのに一度も誘い出せない。お昼に誘っても断られ、夕食に誘ってもダメで、結果的に気軽にラーメンなら…と思っていたのに全然のって来ない。嫌われてるのか、それとも本当に旅行のための節約なのか…。
こうなったらドラマでイケメンがやってるような、肘を水平に出した状態で両手を顔のすこし前に置き、ウィンクしながら手をパチンと合わせて
「一回だけだから!ね!」
って彼女に強引に頼み込むしかない。もちろん、一回で終わる訳もないし、夜は狼のようになってしまうんだけど。それでも何度か言ってみる。
「お願い!何もしないから!一回だけ!」
「実家に帰らないと行けないからさ、4日間構ってもらえなくなるね」
そう会社の女の子に言うと、彼女はすこしだけ呆れたように言う。
「ほんと甘えてくるね」
「うん…」
「ていうか、親に構ってもらいなよ」
と冷たく言い放たれた。
もう全力で好きをアピールしているから、彼女からも邪険に扱ってくるようになった。彼女の側を通るたびに話しかけていたし、前日の喧嘩の件もあって多少言葉遣いが荒くなっても平気な関係になったようだ。
それが愛だとか恋に発展するかは別として、明るい人見知りを自称する彼女にうまく入り込めた気がする。帰る間際に彼女に対して、会えなくなるのが寂しいともう一度彼女に伝えた。
「そんなことないでしょ?」
表情を覗き込みながら言う彼女に答えになってないことを言う。
「もしかして、月曜日とかに会社に来れなくなるかも…」
「どうして?」
「もう自分は必要ないのかなとか思って、来ないかも」
「キミはそういう人じゃないよ…」
そう少し自信なさげに言う彼女。悲しそうな瞳で見つめてくる彼女にからかうように言う。
「いや、わかんないよ?」
「そういうことする人じゃないもん」
むくれる彼女。そんな顔をニヤニヤしながら見て、帰る仕草をすると彼女は丁寧に改まって「おつかれさまでした」と挨拶した。それに対して、じゃあねと軽く手を振って4日間のお別れ。
こうして別れたものの、2人の関係は恋愛の理想のようなものじゃない。お別れ前に何度か彼女をデートに誘おうと四苦八苦していた。
「土日って暇?」
「わたし土日はね、泳ぎの練習をする」
「あ、旅行に行くからか」
「そう」
その後もタイミングを計って一緒にどっか行かないと聞いた。すると彼女は
「うち、妹がいてさ。アイツがいると無理なんだよね」
と、よく分からない理由で断られた。たぶん、美術館デートに遅れたことも彼女の妹が原因だったと言うし、都合よく第三者を使われたため強く反論は出来なかった。
それでも食い下がるようにどっか行こう?と誘うと彼女は
「わたしが旅行に行く8月中は無理だね」
だって。もう絶望的じゃないか。
「フェロモン剤って言うのはね、要するに虫同士の“交尾”を邪魔して虫を寄せつけないようにするの」
なんて会社の女の子の説明を聞いていた。恋愛未経験だと“交尾”という言葉にも過剰に反応しそうで、顔に出ないようにスルーするんだけど。そんな彼女の説明から、些細な意見の衝突が始まることになる。
それまでに自分が手伝っていた彼女の仕事を彼女は上司に報告して、その後は上司を頼るようにして作業を進めていた。そのことで
昨日手伝ってあげたのに、どうして今日は頼ってくれないんだろう
そんな気持ちが芽生え、彼女に対してすこし苛立っていた。そういう状況で彼女から新しく仕事の依頼を受けた。
「それでね、ここは…こうして欲しいの」
「…うーん」
「言ってること分かる?」
「全然わかんない」
そうやって彼女の説明をやや否定的に受け答えしていた。彼女の説明は分かりにくかったし、何をしたいのか彼女自身も理解してなかったようだ。
「ここは…こんな感じにして欲しくてね」
「じゃあ、この2つはどう違うの?」
そう聞くと、本当に困ったような表情をして目を見つめてくる。少しの間をおいてから、彼女が口を開いて
「じゃあいい、わたしがやるから…」
そう言って、手元の書類を集めようとする彼女。その行動に焦って、待って!と叫んでから、続けて言う。
「いや、やりたくないわけじゃないんだよ…。分かる?」
「…。」
これは困った、彼女の気分を悪くさせてしまった。そう思って、すこし泣き出しそうな瞳をする彼女に言う。
「ごめんね…、ちょっと感じ悪かった?」
「…うん、すこしね」
「ごめん…」
本当に心から謝った。
その仕事は営業から彼女に来ていて、それを彼女が説明するという伝言ゲームになっていた。彼女は責任感の強さから自分が説明しなきゃいけないと思い込んでいたので、それは直接営業から話を聞こうと提案をすると彼女も納得して2人で話を聞いた。
その説明を受けたあとで、再び彼女の席に戻ってから
「さっきは、ごめんね」
と、甘えるように謝ると、彼女は言う。
「うん、大丈夫。気にしてないよ」
「本当に?」
「仕事だったら意見の衝突とかもあるものだからね」
無理に大人っぽい意見、当たり障りのない言葉をぶつけてくる彼女に距離を感じてしまい、もう一度謝った。すると彼女が言う。
「気にしてないから、良いよ」
「うん…。」
「気にすんなって」
「でも、感じ悪いって思われたしさ」
「それはごめんね」
「それに、嫌われたくないし…」
「わたしなら大丈夫だよ」
「じゃあ後でさ、お詫びに何かおごるよ。何が良い?」
彼女は何でも良いと答えたけれど値段も高めのアイスを買ってきて、仲直りの印として彼女の席の近くに座って2人で話しながらアイスを食べた。
食べていると、営業がやってきて一言。
「なんか、幸せそうな顔して食べてるね」
そう言われ、すこしお互いを意識する。彼女は食後のデザートだからなんて言い訳をする。さらに、営業がこちらを指差して
「今は、彼と一番仲良しなの?」
そう彼女に聞くと、すこし悩むように視線を下に落としてから営業の顔を見て微笑むことで答えを誤魔化した。これは…!そう思ったけれど、彼女の表情は「仲良しだよ」とは見えなくて、「まあ、2番目くらい?」と言ったように見えた。
些細な喧嘩をして、仲直りをしたこと
そうやって、2人の関係は前より近づいた気がする。ここからの距離を詰めていくためには、
まずは積極的に自分をアピールをしていく
の次の段階。
そのあと、ふと身を引くと女の子の方から心配してやってくる
盆休みもあって彼女とは文字通りの距離を置いてしまうけど、これじゃ身を引くとは違う気がしてる。
「来週月曜まで、4日間も会えないの寂しいな…」
明日こう言ったとしても、そんなことないだろってツッコミいれられるんだろうけど。
もう会社の女の子に対して好き好きオーラ前回で接しているけど、年下だからか完全に対象外扱いされている感じ。
今日は上司を除いた2人きりで駅まで帰れるなんて甘い希望を持ってたら、残念なことに別の上司に絡まれ3人で駅まで移動。そのときに上司から彼女にとって嫌な話題を切り出された。
「あの人はどうなってんの?」
彼女と上司の中間に立って、上司と彼女の視線を遮るように簡単な会話をする。その後、話題を続けようとする上司に言う。
「まあ、良いじゃないですか。いなくなった人のことを今さら言っても…。」
そう、さらっと話題を切るようにアピールする。そうだなと納得する上司。そこで、左側に隠していた彼女に向き直って小声で言う。
「ごめんね、嫌なこと思い出させちゃって…」
首を横に大きく振る彼女。髪が乱れちゃってちょっと可愛い。けれど、そんな素敵な気の遣い方をしても彼女の眼中にない。そこまで男としての魅力に欠けているのかな…。
沼に嵌った人を助けるには、泥の中に浸かって汚れなきゃいけない
たぶん今までなら、汚れることを敬遠して泥に浸からずに助けようとしてたけど、今の自分なら思い切って泥に足を突っ込む自信がある。汚れてプライドを捨てても良いから助けようと思う相手、それが彼女。だけど差し伸ばす手が届かないような…、そんな状態。
今日のランチタイム前、彼女にお弁当かどうか確認のため聞いてみると
「今日は持ってきてないよ」
と言う。ここはアピールしとこうと誘ってみる。
「じゃあ、どっか一緒に食べに行く?」
「うーん…」
「どうする?」
「今さ、あんまりお金使いたくないんだよね」
「旅行に行くんだっけ…」
「そう、節約しなきゃ」
そんな断り方をされて、彼女との距離を感じる。そうこうして、ランチタイムの時間に1人で出掛けようと準備しているときに彼女と仲が良く、彼女より年上の女性もランチの話をしてきて聞かれる。
「じゃあ、3人で食べに行く?」
「え、えーと…」
「一緒に行くの嫌なの?」
「…嫌じゃないけど」
半ば強引に誘われて、彼女を含めた3人で食事することになった。最近彼女を誘いすぎてるせいで警戒心を持たれてるのか、それとも何かしらの探りを入れられたりするのか恐怖の中でのランチ。
しかも、案内されてお店に入ると4人席に座らせられて、目の前に女性2人が座るという有り得ない構図。何これ、死ぬの?
「エビ苦手なんでしょう?」
と、突かれて天丼のエビと野菜を交換。3匹いたエビちゃんが1匹になってしまう。
そんな中で話題自体は特別なこともなく休暇の話と仕事の愚痴だけで終わった。
今の自分の気持ちは、彼女のことを好きかと問われたら「好きだよ」って普通に言える心境でいるし、その気持ちを隠さないで彼女に接している。けれど、やっぱり彼女は線を引いておきたいみたいで、だからこそ警戒しているんだと思う。
彼女が断ってしまえば、仕事上の関係が崩壊してしまうわけだから。おそらく似たようなことを彼女は過去に経験していて、余計に社内恋愛は避けたい。そのこととは別に、彼女が考える理想はあくまで『結婚相手』であって、こちらが思っている『恋愛』の好きとかどうこう言う気持ちじゃない。
年を重ねるたび、女の子は夢を見なくなり現実を見る
話は前後して、帰り際に上司が彼女に対して、一緒に仕事をしていた独身男は押しが弱かったのか?と聞いていた。それに対して、あの人はダメだと主張する彼女。それでも、押されていたら…と話を繰り返す上司。
このやりとりを見て結局のところ、
男の魅力って押しの強さじゃないか
と思った。上司は既婚者だし、押せばどうにかなるのかも。もう、彼女のスケジュールを聞き出して予定を詰め込んでいく方が話が早い。既に優しくするとかプレゼントしてアピールする段階じゃない。
もっと、行動を!
東京湾大華火祭、会社の女の子のフラグを生かせないまま観に行く。写真の右にいる女の子の脇を通して見る花火…、なんて狙ってるわけもなくカメラ固定のため足元で撮影したらたまたま面白いアングルで撮れてた。
クッションを持参してお尻が痛い思いしないで済んだり、突然の豪雨にも折り畳み傘で対応したり、最後まで見ながら会場から自宅まで1時間で帰れたり、スケジュールの立て方からエスコートまで上手く出来ると思うし、前にいたカップルよりも上手に会話する自信もあるのに、彼女がいない…。もとい、いたことがないんだが、これは…。
先日、仕事で嫌なことがあって会社の女の子の側で言ったことがある。
「よし、死ぬか」
つい、何ともない普段の記事を書く感覚で言うと彼女に
「死んじゃダメ」
なんて、怒られた。
だけど今頃、その彼女は友達に紹介された男と仲良くやってんのかな…。雨に打たれて、ちょっと気分が沈んだ彼女を相手の男が慰めるようにして、大丈夫?なんて優しい言葉かけられて。彼女がウンと頷きながら男の肩にもたれかかって…。
よし、死ぬか。
「携帯、鳴ってるよ?」
そう会社の女の子に言う。彼女は仕事に振り回されることが多く、1人で考え込んでしまうタイプだから彼女をサポートをしていた。そんな仕事も一息ついて、コンビニで買ってきたPINOのマンゴー味を一緒に食べていると彼女の携帯が鳴った。
「あ、ほんとだ」
そう言って携帯に手を伸ばし、メールを確認する。読んでから、すこしだけ笑いを溢すのが気になって声を掛ける。
「何?紹介の話?」
「あ、違う。今度の休みにね、お盆に帰るって話…」
「そっか」
ウンと頷く彼女。そのままPINOの箱に興味を示したようで、手に持って色んな角度から眺めていた。そんなことで他愛のない雑談をして、それをゴミ箱に入れてから彼女に呟くように言う。
「紹介…、上手くいかなきゃいいなー」
「うん、何?」
声の出し方が小さすぎたのか良く聞こえなかったみたい。少し彼女を見てから同じことを言う。
「いや、紹介が上手くいかなきゃいいなって…」
「なんじゃそりゃ」
そうツッコミをいれられた。普段から察しの良い彼女ならこれで伝わると思うけど、恋愛とかに発展させたくないから誤魔化すんだろうな。誤魔化された。
ここで強気にストレートに好きだからなんて言える勇気がないし、伝えてぎくしゃくするくらいなら今のままの関係が心地良い。けれど、もしも彼女と紹介された男が恋人関係になることが今の自分には受け入れられないんだ。
「それでさ…」
「うん、何?」
首を傾げるようにしてこちらの表情を覗き込まれる。
「紹介してもらうんだよね?」
「うん?…なんだっけ?」
「今度の花火に行く日にさ、友達に男を紹介してもらうんでしょ?」
「あー、うん。そうだよ」
「紹介ってさ、あんまり上手く行かないと思うよ?」
「それもそうなんだけどさ、やっぱり結婚もしたいしさ。」
「うん…」
「結構、1人で居るのって寂しいんだよ。安い給料で遅くまで働かされたりして疲れるし。」
「そうだね」
「子供産むってなったときに30を過ぎるのは良くないと思っててね」
ごめん、話が広がりすぎて恋愛未経験者にはつらい。そう思ってアピールする話題に戻してみる。
「でも、絶対に紹介じゃ上手くいかないって」
「それは会ってみなきゃ分かんないよ」
彼女の横に座って、チラチラ彼女と目を合わせる。
「花火大会、俺と一緒に行かない?」
「うーん、でも先約があるし…」
「俺は一緒に行きたい」
そう強く言って彼女の様子を見る。彼女がすこし叱るような口調で言う。
「でも、友達との約束は破れないでしょ?」
「…」
破れる?破れない?そう頭で言葉がループして何も言えなくなる。どうにか理由をつけて、一緒に行くことにしたいのに良い言葉が見つからない。仕方なく、ウンと頷くと彼女が勝ち誇ったように言う。
「でしょう?」
負けた…。口では女の子に勝てないみたいだ。そのあとも、「一緒に行きたい」と言いたかったのに話題を変えるようにして上手く逃げられた。
「仕方ないから良い席から写真撮ってメールで送るよ」
そう彼女に言うと
「わたしは人混みの中からの写真撮って送れば良いの?」
と冗談を返す。仕方ない、今回の東京湾大華火祭は誘うのをあきらめるか…。
帰り際に彼女と時間を合わせて帰ろうと準備していると、彼女が一足先にエレベーターに向かおうとする。じゃあ、一緒に帰るなんてことを伝える。すると彼女が言う。
「あ、わたし今日は用事あるから別の駅に行くんだけど…」
「そうなの?」
「うん…」
困った。2人きりで駅まで帰るチャンスを逃した、なんて考えているとわざと男っぽい口調で彼女が言う。
「そんな、寂しそうな顔するなよ」
そう捨てセリフを吐いて去っていく。こっちの心境までも見抜かれている。やっぱり女の子は怖い。
今日も自信なさそうに浴衣が似合わないという彼女に「そんなことない」と言えたし、花火大会の件は残念だったけれどアピールは出来たし…。何よりも好きって感情には気付いてもらえたんじゃないかと思ってる。
話していても、弟みたいな扱いされてるんだけどさ…。
「女の子に会うためにお昼遠くまで行って食事してるでしょ?」
そう会社の上司に言われ、まさかと答える。会社の女の子も都合よく話を聞いていて冷やかすように言う。
「ふーん、いいなー」
「だから、そんなんじゃないよ」
否定意見を彼女に向かって言う。そして彼女はすこし遠くを見るようにして言う。
「だから、わたしも今度ね、花火大会の日に男紹介してもらおうって思ってさ…」
そう嬉しそうに言う彼女に、良いんじゃない?と適当な返事をする上司。すこしだけ不快な表情をして軽く溜め息を吐く自分…。
今日は忙しくて彼女に対してアピールも出来なかったし、良いところだって全然見せられなかった。お肉を一緒に食べに行く提案も延期してしまったし、彼女からも相変わらず「さん付け」で呼ばれている。自分から彼女のもとに行くことが多くなって、彼女が席に来てくれることも無くなった。
「わたしは、好きな人のことは追っかけて行くタイプだから」
間違いなく全然追われてない。だからこそ逆に、彼女に対して追っかけてみたらどうだろうかと思っている。口で言うほど追うようなタイプには見えないし、彼女も意外に受け身なのかも知れない。明日あらためて東京湾大華火祭の話をしてみようと思う。
「紹介なんて絶対上手く行かないって!だから花火見に行く相手は、俺とか…どうかな?」
そういうアピール方法。間違いなく彼女は「でも、友達と約束が…」と返してくるから、そこで好きな気持ちをストレートに伝えてみる…なんて、出来ないだろうな。
だけど、考えてみても彼女が見知らぬどこぞの30代の男と付き合う姿なんて想像がしたくない。それなら自分が彼女と付き合うことの方が、彼女を幸せにしてあげられると思う。わりと本気で。
およそ半年間、彼女と一緒に仕事をしているのだから、そこらのカップルよりも長い時間一緒にいる。それは初対面の異性と仲良くなるための面倒を省いてしまえるっていう、最高の環境にいるんだ。
胸の前で親指と人差し指を突き出すようにして三角を作る。それを、前面に押し出して…
「心の扉、アンロック!」
なんて叫んでみて、しゅごキャラ!ばりのキャラチェンジをして積極的に会社の女の子にアピールしてみた。「てか、お前誰だよ」くらいに思われるテンションで彼女と全面戦争してみた。
朝の攻勢。久しぶりに腹の底から「おはようございます」と大声で挨拶してみたら、よくスルーされる営業連中から返事された。普段どんだけ存在感ないんだよ…。
そのまま、朝の会議に出席する。会社の女の子に風邪ひいたと言われ、いつもはローテンションで気が乗らないけど笑顔で話に応える。会議のあとに「今日は服装の雰囲気が若いね」と経理の女性に言われて、ますます調子付く。まだ20代半ばなんだよ。
会議のあとに、目当ての女の子の側に行って雑談。主に前日に行ったプールの話を聞きつつ、自分が花火大会の下見に行ったことを話す。
「それで、行ってみたらお祭りとかやっててさ…」
「あ、そういえばメール来てたね」
気付いたらメール返せよ、なんて野暮なことを言わずに笑顔で対応。そうそう、楽しかったよなんて答える。
お昼の攻勢。お腹が空く時間帯になって、彼女に聞いてみる。
「今日は…、お弁当?」
「うん、そうだよ」
「あのさ、近くの公園で食べない?」
「公園…?」
「でも、今日暑いかなー」
うんうん、と彼女に二度も頷かれる。そうしてから、彼女は口を開いて
「だったら、明日どっか食べに行くほうが良くない?」
「じゃあ、それで…」
そう言って口約束をする。どこまで本気なのか分からないのが女の子の怖いところ。翌日になって、忘れてたーとか言われて放置される場合もよくあるので、こっちも冗談半分で口を合わせておく。
お昼から戻ってきて、開口一番。
「外でご飯食べれるなんてレベルじゃなかったよ」
と、暑いような仕草をして彼女に報告する。そのあとに、「明日一緒にランチ行こうね」と念をおしてみる。どんだけ甘えキャラだよ…。
ちょくちょく彼女と会話を交えながら仕事をして、小腹が空いてきた頃に言う。
「今日早く帰れたらさ、お肉食べに行かない?」
「お肉?」
「そう、焼肉じゃないよ」
うーん、と言ってから天井の方を見つめて考える彼女。
「今日やっておきたい仕事が多いんだけど、どうしよう」
「じゃあ、明日にする?」
「わたし、旅行に行きたいからお金貯めててさ。だから、あんまりお金使えないよ?」
「大丈夫、1000円ちょっとくらいだから…」
「うん…それなら」
と、一応納得した様子を見せる。そのあとにも彼女に接しつつ、不満を言ったり手伝ってあげたりしながら仕事をする。もう、普段よりもテンション高い高い。死ぬの?くらいの勢い。
今日を一生懸命に生きる
コンビニで買ってきたPINOを彼女と分け合って食べてみたり、まさにフリーダム。自由。
「さん付けっておかしくない?」
と、入社以来の彼女の癖にツッコミをいれてみた。
「そう?」
「でも、え?年上ですよね?」
そう、彼女にボケるように言ってみる。
「そうだけど、わたしより下の人と仕事したことなくてね…」
「でも…、ちょっと距離感感じるかも」
そう柔らかく伝えて、距離を縮めていく提案をする。これは、別の機会に言いたかったけれど普通に言えたこと。そんな自分に驚いた。
そのまま遅くまで一緒に仕事をして、彼女と上司に付き添って電車に乗る。上司が一駅目で降りて、自分も普段はそこで乗り換えるけれど今日は別ルートで帰ることにする。雨も酷かったし、天候も最悪だったから。
こうして、3駅くらい話が出来るなんて都合よく考えて話のペースを探っていた。たぶん、楽しく会話していたと思う。座るか座らないか聞かれて、立ったままで話をしていて…。
そこから一駅すると彼女が言う。
「わたし、ここで乗り換えだから」
「そっか、意外と早いね」
「うん。じゃあ、また明日ね」
「お肉食べに行こうね」
「お昼?」
「ううん、夜に仕事早く終わったら…」
「分かった」
「じゃあね」
そう軽い挨拶をして別れた。でもって、後から調べたら2,3駅通過してからでも乗り換えできるっぽいんだが、これは…?
可能性。
このままだと、好きになりすぎて危険!だから降りる。
可能性。
この人テンションおかしい。何するか分かんないから降りよう。
間違いなく後者。たぶん、ちょっと引いていた雰囲気に見えた。普段とキャラ違うからか警戒したんだろうな…。強引に誘いまくって、無理やりなんかしそうに見えたのかも知れない。
それにしても、こんだけ誘って好き好きってアピっておけば何とかなるだろう。行動を起こしてみたら、またまた予想以上に彼女との距離感を感じてしまった。ただ、東京湾大華火祭までに一度は食事に行っておきたい。それが、たぶん今後の重要な伏線となる気がしてる。
彼女に浴衣の話もしてみたけど、彼女は友達と行く気みたいだったし自分とは一緒に行ってくれないだろう。それこそ、何されるか分かったもんじゃない。
女の子の警戒心は、男でも分かる
そう、今日の彼女を見て感じた。まず、そこから突破していかなきゃ進展なんてない。
結果的にはアンロックしたつもりが、ロックオンしてしまったみたいだ
会社の女の子に週末メール打ってみたが返事がない。これは、あれだ。やっぱり彼女にとって、自分はもう必要ないんだな。よし、あきらめるか!そんなことを考えて死にかけていた。けれど、この件で逆に吹っ切れて彼女に対して攻勢を掛けていこうと考えた。
まずは積極的に自分をアピールをしていく
そのあと、ふと身を引くと女の子の方から心配してやってくる
こういう恋愛のセオリーに対する意識はあるのに、どうも現状では身を引くタイミングが早すぎるようだ。あきらめるのが極端に早いし、何より傷付きたくない。
「キミってさ、温かいのか冷たいのか分かんないね…」
そう彼女には言われたし、たぶん自分の意識する距離感が人よりも大きいんだろう。距離感を縮めて仲良くなるための場所って限られていると感じていて、社会人ともなると仕事で関わってるだけでは仲良くなれないようだ。
まずは、煙草。休憩中に会話をして仲良くなるスタイルが一般的らしい。けれど、当然吸えないし女の子が煙草を吸うのも好きではないので却下。彼女の上司がこれを用いて彼女との距離を凄く縮めた。
次に、飲み会。飲めないこともないけど、周りみたいに馬鹿になれない。これは経験不足だから仕方ないとして…。
最後に食事。これは比較的誘いやすく、ハードルも低い。同じ釜の飯が何とかってくらいだから、仲良くなれない訳がない。この残された手段を使って彼女を徹底的に追い詰め…じゃなかった、アピールしていくことにする。
Stay hungry. Stay foolish.
来週の花火大会までに彼女と一度は食事に行けないと、花火大会も断られてしまう気がする。
「今日は10のうち、0.5くらい言ってみない?」
たぶん、彼女からは何も理解されていない現状なんだ。記事とか書いていつも彼女のことを考えているから、妄想恋愛で勝手に距離が縮まってると思っているだけで…。
片想いは楽しいけれど、危険がいっぱいだ。