June 2006アーカイブ
視界のすみに立ち止まる気配を感じる。そのまま動き出す気配もないので、横目で見ると仲の良い女の子が見てたりする。約4メートルの距離で。その場から彼女が話しかける。
「ねえ、~知らない?」
「えとね、それだったら…」
なんて、4メートル離れた距離で会話する。もっと、近くに来なよ…。面倒になって、視界のすみに確認しても無視してみる。と、彼女が視界から消えてしまう。
以前からそんなことがあって、きっと彼女は気付いてくれるかな?というサインを密かに送って実験しているに違いない。それで、気付いてくれたらちょっと嬉しいみたいな。普通に用事がある場合を例外とすると、どうしてか彼女は声をかけることを躊躇う。話の最中に少しだけ触れた「作業してるときとか見られたくない」という宣言を気にしてくれているのかな…。きっと彼女はそんな約束だとか決まり事を守るために、自分が犠牲になれる人なんじゃないかなって思う。
彼女を視界に確認できたとして、こちらが特に反応をしないと、ぷいと向きを変えてどっか行っちゃう。その様子が視界のすみで行われてるのが楽しい。そのあと彼女が仕事で、近くの席でその件の話をしてた。それが終わったかと思うと、知らない間に席の後ろに回り込まれて子猫にするみたいに首根っこを掴まれた…。にゃー。
「キミ、やっぱり細いね」
「あ、首?」
「うん」
「細いかな…。」
なんて微妙な会話をして…。彼女は絡みたかったのかな。話をもっとしたかったのかな。だから遠くで見てたりとか。
プレゼンが全然上手くできなくて落ちまくり、自信喪失気味だったこともあり、今回また新しく引き受けたプレゼンでもきっとダメなんだろうと漠然とした不安を残して制作メンバーに加わった。制作は期間が短いながらも順調に進んでいて、途中何度か打ち合わせをしたのだけど、そこで自分がプレゼンで主張したいことと企画側での意見が異なっていて再度方向性を調整をしようということになった。
デザイン面で損なってはいけない部分があるのだけど、企画や制作意図が反映されていないという点で改善して欲しいという要望。だけど、それを直したら情報の見せ方だとか、構成とか見た目以外のデザインが台無しになるよ、というこちらの意見も主張してみた。仲の良い女の子も、困ったような表情で意見を言う。
「その部分がそのままだったら、こっちの文章もおかしくなるよ」
「うーん、だけど逆にビジュアルに文章を合わせれば…」
「そうすると方向性がおかしくなるから」
「いや、でもデザインとしてはここは変えたくないから」
なんてことを平行線みたいに議論していると、うーんと考え込んで不安な表情を見せる彼女。
「ていうか、こっちのがカッコイイのは分かるんだけど…。」
「うん、変えたくない。」
「でも、文章と合わなくなるじゃん。」
「そこはビジュアルに合わせて…」
「うーん…。ほんとは作業したくないだけなんじゃない?」
いやいや、すごい真面目に作業してるんだけど。何時間も机に向かって…。ということを彼女に伝えると、再び悩ましげな表情を見せる彼女。あまりに考え込んでるので、こちらから話を切り出す。
「じゃあ、文章を変えたらまずいかな?」
「うん、それはダメだよ。」
「でも、これくらいの文章なら自分でも書けるし…」
「そうだけど、それは企画部分も含まれてることだし勝手に変えたらダメだよ。」
彼女の言葉に納得して、何も言えなくなる。逆に自分が全部やりたいとか言ってしまう始末。そのあとも議論は続いた結果、ふとしたキッカケでつい言葉にしてしまう。言ってはダメなこと。
「ていうか、今回のプレはあきらめてます。」
驚いたようにこっちを見る彼女。さすがに自分でも言い過ぎたと思ってフォローをする。
「今までのプレで落ちた原因は、全員が好き放題言ってそれをまとめたから主張が弱くなってると思うんですよ。それに、落ちてもインパクトとか印象を残すためになるべく大胆に主張だけハッキリ見えるプレにしたいから。」
と記録よりも記憶に残るデザインというようなことをアピール。
「でも…、あきらめたらダメだよ…。」
彼女のセリフに胸が高鳴る。彼女も疲労のせいか軽く涙目みたいだし…。さらに言葉を続ける彼女。
「わたしだって、最初からあきらめてたら夜まで頑張って企画とかも書かないし…。」
「あ、うん…。」
悪いこと言っちゃって、怒られた感覚になって自分の言葉を反省してしまう。あまりに言い過ぎた。これは言わないでおこうと決めてたことが、つい出てしまったことにも驚いた。結局、彼女の言う通りの方向性に落ち着いて、健全なプレゼンになったのだけど。
「キミのはね、商業ベースのデザインじゃないよ。それなら、アーティストとかになりなよ。」
って、怒られた…。
この件できっと恋愛においても大事な面。最初からあきらめない。あきらめて勝手に動かない。勝手な判断をしない。そんなことを彼女の言葉に重ねて考えていた。
議論のあとのこと
その翌日、言われた方向性にしていく修正作業を進めていると一通のメールが届く。普段はそんなメールなんて送らないのに、照れ屋さん…。とか考えてたら、一緒に同席していた仕事の監視役的な女の人からだった。
昨日はずいぶんと議論が白熱していましたね
わたしも頑張るから、一緒に頑張ろうね
そんな文面がちょっと長めに送られてきた。
そんな状況下で完成したもの。プレゼンでも決して受けも悪くなかったし、これはさすがにOKかなと思ってたら本日結果報告が来て…、ダメでした。お昼ぐらいに仲良しの女の子に「どうだったの?」と聞かれて、
「まだ、結果はわかんないんだけど。あれ、落ちたら相当凹む…。」
なんてことを言った側。見事にプレ落としました。ほんとうに、ありがとうございました。
きっとプレゼンって恋愛のプロセスにおける告白と似たようなもので、好きな気持ちをあたためて伝えたんだけど、ごめんなさいって断られるのに似てるのかな…なんてことを考えてた。ほんとに落ち込んでしまって、こんなときに、彼女が
「今回は仕方ないよ。でも、他にもたくさんあるからさ。きっと、またがんばってれば良い事あるよ。」
なんて慰めてくれれば、と思ったのだけど。そういえば彼女は、新婚だった…。
「仕方ないよ。でも他にも女の子はたくさんいるからさ。きっと、またがんばってれば良い事あるよね。そう、きっと…。」