夢の同棲生活
「うん、戻って来るまで鍵閉めとくね」
「わかった」
「ちゃんと携帯持った?」
「…うん」
朝方、会社の女の子にメールを打って遅めの休日出勤した日。
会社に着くと彼女が笑顔で待っていた。
「今日、あの人は?」
そう上司の名前を告げると、彼女は首を横に振った。
「何か予定あるんだって。だから今日は来ないよ?」
思いがけず会社で2人きりになる。
そんな状況下だからか普段以上によく喋る彼女。
これはこれで、何だか同棲疑似体験って感じ…。
「ちょっとコンビニ行ってくるけれど、何か買ってこようか?」
そんなことを聞くと、彼女は辺りを見回すようにして言う。
「うーんとね…。今はないから大丈夫。」
そう答えた。出掛けようと玄関まで行くと彼女がついてきて、
念のため鍵をかけるからと告げられた。
コンビニから戻ると彼女は「おかえり」なんて優しく出迎えてくれた。
そんなふうにして2人きりで夕方まで仕事をした。
「あのさ、一杯くらい飲んでいかね?」
彼女はわざと男っぽい口調でそう聞いてきた。
それから近くのコンビニで彼女に缶ビールを買ってもらい
眺めの良い場所に移動して、そこで乾杯した。
彼女は美味しそうに缶ビールを飲みはじめ、
自分はいつまでも慣れない味に戸惑うようにそれを飲んだ。
だから彼女に
「あんまり、美味しそうに飲まないね」
なんて微笑みながら言われた。
そして他愛無い雑談、彼女の明日の予定なんかを話した。
そのまま帰りの電車に乗り、彼女は出口付近の手すりに体を預けた姿勢で。
自分はそれと向き合うようにして彼女の前に立って話した。
普段よりもよく目を見るようにして。
彼女と付き合ったらこんな感じなんだろうなぁ
そんなことを考えながら一生懸命に話す彼女を見る。
けれどそれは、前に見た『好きな相手を見る目付き』とは違って見えた。
このまま何ヵ月後かに、「会社辞めるね」と彼女に告げる自分。
それだけが彼女と話しながら想像していた場面だった。
「あのさ、今のうちに言っておきたいことがあるんだけど…」
そんなセリフをいつでも言えるように準備しながら、
またしまい込んで、結局それを言えるタイミングもなかった。
だから、きっと、このまま…。
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