パスタ
「頼まれてた仕事なんだけど、終わらせておいたよ」
「うん、ありがとう」
「お礼にランチおごってくれるんだっけ?」
そんな約束なんてしていないけれど、冗談交じりに彼女に言うと
「それは、営業の人に言いなよ」
彼女はそう言ってウフフと笑って誤魔化された。
「じゃあさ、コーヒーおごってくれるんだよね?」
そう言っても笑顔を向けるばかりで、彼女は「うーん」なんて悩ましい声をあげる。
それを無視するようにして、思い付いたように叫ぶ。
「あ、そうだ!」
一度自分の席に戻り、それを彼女に渡して声をかける。
「このあいだオープンした店なんだけどさ…」
「なになに?」
「パスタ屋さん」
「ふーん…」
そう言って渡されたメニューをじっくりと眺める彼女。
最初こそ誘われることを怖がるように否定的な意見を言っていた彼女だけど、
予想外に興味を持ってきたように思えた。
「今はまだ混んでるんだけどさ…」
そこで、一息間をおいてから続けるようにして彼女に言う。
「今度一緒に行かない?」
それに対して行くとも、行かないとも言わずに
「あー、オープンしたばかりなんだー!」
「うん、だからお昼とかすごく並んでたよ」
「そっか」
「それが終わって空いてきたらさ、“そのうち”一緒に行かない?」
そんな風に言い直して誘う。
すると彼女も、少しだけ強調するようにして
「いいよ、“そのうち”ね」
「うん」
そんな曖昧な約束を彼女とした。
きっと一緒に行くことなんて無いだろうなって誘う前から思っていたし、
約束の実現だって絶望的な状況だ。そろそろ死ぬか。
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