犬×彼女
「チョコあげる」
「どうしたの?」
「これ、すごく美味しいんだよ。ホワイトチョコレート」
「ホワイトチョコレート?」
「うん、生チョコのね」
話し相手は当然のように会社の女の子な訳だけど…。
最悪の日に起因する、諦めの気持ちを覆すような行動をとる彼女。興味がないのなら放っといて欲しい。そう思うけれど、女の子特有の表向きは仲良くするという気持ちで渡されたようなチョコを、彼女から貰ってしまう。もちろん、彼女の信頼する上司である愛称パパも貰ってるわけだけど…。
別にチョコレート貰っても、そんなに気持ちは変わらないけどね。そう心の中で呟いて、感情を高ぶらせなかった。
犬の餌付けじゃないんだからさ、チョコ程度で懐くかって…
すこしの苛立ちを感じながら過ごす。ランチタイムも過ぎて、彼女は今日もパパと食事してるんだろうなと嫌な想像。毎日一緒にいて飽きないんだろうかと不思議に思う。
ランチタイムから戻って来ると、新しく買ったブーツを暇そうに触っている彼女。話題があったので話しかけたけど様子に変化は見られず、まだ警戒心をもたれていた。彼女は「誘われること」を極端に怖がってるようで、地雷を避けて通るような不自然な会話をした。
そのあとで仕事の相談をするため、彼女のことを賞賛するような言葉を頭に付けて彼女を呼ぶと引きつった笑顔で振り向いて言う。
「何それ?わたしに対する皮肉で言ってんの?」
と、問い詰められる。それに焦って、
「いや、だって俺よりも凄いじゃん。前だってさ…」
そんな言い訳をすると彼女も悪気で言ったんじゃないと理解したのか、表情を緩めてくれた。それから彼女なりの率直なアドバイスを受けた。彼女にお礼を言う。
「参考になったよ、ありがと」
「わたしも実はまだそんなに考えてないから、参考になるか分かんないよ」
「そんなこと無かったよ」
「ずっと1人でしてると、客観的に見れなくなるよね」
彼女の言葉に頷いて目を合わせ、気持ちを共有するようにした。それから、彼女に言う。
「あのさ…」
「うん?」
「やっぱ、聞き上手だね」
「そう?」
「うん、だから他の皆もさ、ココに話しかけに来るんじゃないの?」
そう、彼女の席を指差して言う。すこし照れたよう微笑んで彼女は答えた。
「そんなこと、初めて言われたよ」
余計なことを言わないように、彼女と目を合わせてから席に戻った。以前、彼女の声を誉めたときも似たようなことを言われたことを思い出した。
誉めるときは、行為をしたときに誉める
それは、『犬を手懐ける』ときに似てる
そう思った。人間も犬も誉め方に関しては大差ないんだと思う。いっそのこと、犬と思ったほうが緊張しなくて良いかも知れない。いや、人権的にいろんな問題が起こってくるけど…。それからの時間は、彼女と問題解決することが多く、以前の特に仲が良かった時期を思い出すようだった。
用事があることを告げて帰るとき、珍しく彼女から話しかけてきた。
「あ、お疲れさま。なんか、最近早く帰ってない?」
こっそり転職活動してる…、こっそり女の子とデートしてる…。そんな彼女を不安にさせる印象を抱かせたり、最悪の日のショックから立ち直るために早めの帰宅をしていた。そもそも帰宅部だし…、なんて思いとは裏腹に首を傾げて言う。
「そう?」
「わたしはね、犬でも飼ってんのかなーって予想してるんだけど…。」
どんな想像だよ!彼女の突飛な発言に戸惑いながら微笑んで答えた。
「イヌ?どうして?」
「いや、なんとなく…」
「犬かぁ、欲しいけどね」
そう答えながらつまらない妄想が膨らむ。
「いや、人間のメスを家で飼ってるから…」
「うん?」
「カノジョがうるさくてさー」
いや、さすがにない!キャラ的に一言目で犯罪かと間違われるし…、ないない!と全力で自己否定。そんな自分に死にたくなる。
彼女がパパに飽きて自分に興味持ってもらえないかな…、なんて淡い期待を残す。犬だって、毎日同じご飯食べて、同じ散歩コースで、同じ場所にチェーンで繋がれていたら飽きるだろう。犬も歩けば棒に当たるって言うくらいだし…。たぶん、使い方間違ってるけど。
ともかく今日は不思議に『犬』で繋がる一日だった。
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