好きの限界点
「あのさ…」
「うん?」
「これ、忘れてたお金返しておくね」
会社の女の子は少し距離をおく感じで話しかけてきた。それは彼女が夏季休暇に行っていたこともあったし、お金の件でメールで送っていたのに返信してなかったこともあるんだろう。そして、貸した額よりも10円多い、250円を机に置くと急ぐように自分の席に戻ろうする彼女。それを引き止めるようにして話しかける。
「あ、これ見た?」
と彼女が休みの間にできた仕事を見せて会話した。それから何度か彼女の席に行き、旅行中の話を聞いた。彼女も旅行経験を話したいだろうと思って、たくさんの質問をした。お昼の時間になって彼女に聞く。
「今日は…、お弁当?」
そう確認をすると、彼女も食事に誘われることを察したのか身構えるようにして言う。
「お弁当じゃないけど…、でもお金使えないんだ」
「そうなの?使いすぎちゃった?」
「うん、一日で1000円しか使えないからね」
そう言って、右手で1を作り、左手をパーにして訴えかける彼女。
「そうなんだ…」
無理に誘っても仕方ないと思って諦める。それと同時に、『彼女が旅行の話をしたがっている』なんて勝手な妄想を膨らませた分だけ落ち込んでしまう。
それから仕事が落ち着いてきた時間帯に、リベンジとばかりに再度彼女に旅行の話を振って、さらに彼女を誘う。
「あのさ、牛タンって食べたことある?」
「あるよー」
「あれだよ。焼肉の牛タンじゃなく、もっと肉の厚いようなやつだよ」
「うーん…、それは無いかも」
「じゃあ、今度行かない?」
「お金がないからね。」
「1000円ちょっとで食べれるんだけど…」
そこで言い訳をするように彼女は
「また冬になったら旅行するからお金貯めないとねー」
だって。絶望した!何度誘っても断られてしまう自分に絶望した!
それからはもう話しかける気力もなく、やる気ゼロ。どれだけ嫌われてるんだよ…。普通に誘ったりするキャラじゃないし、そういう行動が不自然だから警戒されているのかも知れない。自然に誘える人と、何だか危なっかしい人の違い。よし、死ぬか。
「全部オレのもんだ。孤独も苦痛も不安も後悔も…」
『プラネテス』にあったセリフ。そういう風に、何一つとして彼女には分かってもらえないし、理解されない。結局は、全て自分で抱えて生きていくしかないんだと思った。もう恋人とか恋愛とか無理だ。
これまでのことを振り返ると自分が思っている理想を彼女に押し付け、一方的に好きになったところがある。一旦気持ちをフラットに戻して冷静になろうと思う。自分自身、そんな積極的にアピールしていくタイプじゃないし、「ルイズは俺の嫁」とか言ってる位のが良いかもしれないな…。
今からはもう彼女に優しくなんてしないし、仕事だって手伝わないし、教えてあげないし、お昼に誘ったり、話しかけに行ったりもしないんだから。勝手にすれば?
そんな気持ちを抱きつつ、帰宅部時代の足の速さで仕事場から帰宅。けれど、彼女と交代で書いてる朝の会議資料を前もって作っておくツンデレっぷり。自分はわりにツンデレキャラのが合ってるかも知れないな…。
「俺、そんなに顔も悪くないだろ?」
『時をかける少女』のアニメ版みたいにカッコよく言えたら良いのに、顔良くないからな…。
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