花火に誘う
「あのさ、これなんだけど…」
そう言って会社の女の子にハガキを見せる。前日に届いた東京湾大華火祭の整理券。
「あー、凄いね。どうやって当てたの?」
「ホームページから応募しててさ…」
「そうなんだ、あれって抽選とかなんだよね」
「うん。…それで、良かったら一緒に行かない?」
こうして彼女を誘ってみた。本当はランチを一緒に食べながら誘う予定だったけれど、上司が参加してきたため、3人で昼食を済ませた。そのあとで席に戻った彼女のそばで話をした。彼女は少し顔を曇らせて言う。
「その日、わたしも友達と約束あるんだよね…」
そのことは前日に聞いていたので、少し甘えるような口調で「君と行きたい」みたいなことを言う。すると、本当に困ったような表情を浮かべて彼女は言葉を漏らす。
「うーん…」
「他に誘う相手もいないしさ」
「でも、前に友達と約束してるしね…」
約束したことは断れないという彼女の性格からにじみ出るような優しい一面が見えてしまい、ちょっと悪いことしたかなと罪悪感に思う。そのまま、決断を出来ずに考える彼女。いや、別の断り方を探していたのかも知れない。
上目遣いで見つめて何かの判断を待っている様子を見せる。きっと、何かしらの優しい言葉を待ってるんだろう。誘ったのに折れてしまって、友達を優先させたらどう?とか言うかも知れないし。でも、言わない。言うものか。それで、依然として考えがまとまらない彼女に言う。
「別に今すぐに言わなくても…、考えてからでも構わないよ」
素っ気なく放った言葉に彼女はウンと頷いた。
返事がどうなるか分からないけど、二度めのデートで花火はハードルが高いような気がしてる。普通に彼女と食事をするようなデートを重ねることを考えていたから。けれど、何の因果か整理券が手元にきて、こうして誘ったこと。これが不思議で仕方ない。
今日改めて誘ったことで『男として意識させた』と言うか。それまで、プレゼントやら何やらあげていたけど全く意識されてなかったんだと実感した。女の子は意外と積極的にせまられないと、その存在に気付かないみたいだ。
彼女と一緒に行った中華料理屋でどの料理が有名なのか聞いたことを、後日彼女に聞かされたり。良い男がいない、なんてことを聞かされたり。その中でも最も傷ついたことは、彼女のことを心配して「今まで大変だったね」と何度も言ってたのに、今更のように彼女が同じことを上司から言われて嬉しそうにしていたこと。これには傷ついた、というよりも言葉を失くした。
たぶん、彼女には見えてなかった
女の子はストレートな表現が好きで、想っているからこその隠れた努力とかを求めてない。変な気を遣って後ろからサポートするよりも、邪魔をするように割り込んで一緒に苦労したほうが良い。最初のうちにそれに気付いて行動を起こせば良かったのに、変な気の遣い方をしたことに後悔した。
「女だから」とか「男だから」とか、そう考えていたらモテない
そう考えて、花火に誘ったことを忘れるような勢いで彼女に話しかけに行ってたら、予想以上に彼女の微笑みを観察できた。これは憧れだった『花火大会デート』が体験できちゃう?高いハードル飛び越えちゃう?
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