感情表現が豊かな子
「おつかれさまー」
そう言って3人で乾杯する。自分と会社の女の子、そして新しく入った上司にあたる人。彼女はお酒を飲んでるときには、すごく幸せに浸っているような顔をする。本当にお酒が好きで、飲み屋さんの雰囲気とかも大好きなんだろう。そして上司から言われる。
「こんな美味しそうにお酒飲む人いるんだね」
「だって、こんなに美味しいじゃん」
そう言って、天を見上げながら至福のときを楽しむような表情をする彼女。いろんな話をするうちに、会社の人間関係の話になる。すると、至福を感じていた表情ががらりと変わって口を荒げて言う。
「あの人に、『33くらいになって忙しくて働きたくなくなったら結婚しよう』って言われて、絶対するか!って思ったんだよね」
独身男からのアピールも日頃からあるらしく、怒っている様子だった。
「だから、あいつはみんなの前で中途半端とか言われるんだよ」
幾分エキサイトしてきたので、まあまあと静めるようにお酒を勧める。そこから今度は彼女に足りない部分、こう改善したら良いんじゃないかと言う話になると飲むのを控えて、すこし落ち込んでいた。
そのあと彼女は自分の今までの話。社内恋愛したとか、親に結婚反対されたとか、親からエッチだけはしないように言われてたとか、本当に思いのまま話した。自分にとってそんな経験、想い合える存在がいたことなんて一度もないからあまり深くは聞けなかったけれど…。
家族の話とか苦労話とかひと通り話し終わると、一緒に参加したお葬式の話になった。
「だから、わたしも親しくされた人だし、なんかね…」
チラチラと彼女の方を見ていると、感情が高まっていて今にも目から涙が溢れそうになっていた。そんな視線に気付いたのか急に遠くを指差して彼女は言う。
「あれ?あっちで何か動いてるよ?ちょっと見てきてよ」
と、涙を見られないように誤魔化し始める。結構かわいい。
そのあとも会話が続き、自分が彼女に対して普段から誉めることが多いせいか
「そんなに才能とかないし、わたしのこと誉めすぎじゃない?そう思いません?」
と、視線を変えて上司の方に話題を振る。けれど、「そんなことないよ」と否定される。考え込む様子の彼女。
「だから、そんなに弱気になる部分じゃないよ?」
そう彼女に言うと、独り言のようにつぶやく。
「そうなのかな…、それでも誉めすぎだよ」
もっと彼女は自信を持つべきだし、誉めることはたしかによくする。けれど、ダメだと思うものにはダメと言うし正当に評価している。彼女にとっては嬉しいことだけど、不安になっていたんだろう。たしかに以前に誉めてあげたときも
「あんまり言われたことないから、ドキドキする」
なんてことを言っていた。
こんな優しい言葉をかけてくれるメンバーが揃ったこと、それが今の彼女にとってもの凄く嬉しいことらしく、終電まで一緒に騒いでおしまい。それにしても、喜怒哀楽の感情表現が豊かで忙しい人だなと感じた。
「ほんとに見ていて飽きないよね」
そして、疲れが取れないまま出勤。すこし彼女との距離も縮められたのかな…。彼女の仕事に対して純粋な気持ちで伝える。
「さすがだね、これすごく良いじゃん」
そう言うと、すこし困ったような表情を浮かべる。
「…だから、それは誉めすぎだよ」
と、前日のやりとりを思い出したように繰り返してすこし微笑む。彼女が素直に言葉を受け止めて、自信がもてる日がくれば良いのにな…。
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