彼女と彼女の周りの事情

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「お前仕事しろよ!」




そんな怒鳴り声から始まる。そうして彼女はまた弱気に謝っていた。全部わたしが悪いと思い込んでいる様子だった。どうして自分が失敗したのか原因が分からずに悩んでいるとき、周りから散々お前は出来ない、使えないと言われて正直にそれを信じてしまっている。まるで洗脳のように、出来ないと言われ続けた結果が今の可哀相な会社の女の子。



周りはそれに対して、仕事多くて大変だね、怒られて可哀相だね。と同情するような言葉をかけるけど、火の粉が自分にかかりそうになると「関係ありません」という態度をとる。彼女が失敗したのが悪いんでしょ?とでも言うように。それでも、面倒な仕事を彼女に押し付けて自分たちは雑談していたり。仕事を押し付けられた彼女も健気に指示に従って、過剰にサービスする。そして徐々に自分の仕事時間が取れずにミスをしてしまう。そして怒られる…。



こんな状況を見せられたら、普通なら誰だって助けるだろう?だけど、みんな優しい言葉をかけるだけで誰も解決するような行動をとってない。唯一、味方だと思っていた独身男も恋愛感情だけで動いていて、いざ怒られそうになると自分じゃなく、彼女の仕事が遅いからですと逃げたようだった。




“世の中のすべてのインチキに蹴りを入れてやる”




攻殻機動隊に出てくるセリフだけれど、自分の感情はこっちに近い。おかしいと思うことはおかしいと言うべきだし、今の状況で彼女が押しつぶされてしまうのはあまりに残酷だ。自分が行動しないで、誰が彼女を救えるんだろう。



正直なところ、上司に一発蹴りを入れて「ふざけんな!」と言って解決できたら良いのだけど、世の中ってそんなに単純でもない。ましてや、自分じゃなく他人の問題だからなおさら。




「自分は会社辞めても良いと思ってるんですよ、犠牲になって問題が解決するなら」




そう彼女に言っていた。そして、実際に行動も起こしていたはずだし社会は変えられる。かならず良い方向に行くはずだ。そう思っていた。でも、結局は社会という大きなモンスターに小さな声が飲み込まれただけだった。自分はなんて無力なんだ。そう思った瞬間に悔しくて涙が出た。




“未成熟な人間の特徴は、理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。



これに反して成熟した人間の特徴は、理想のために卑小な生を選ぼうとする点にある。”




犠牲なんて言葉を使ったけれど、そんなことで解決するなら安い問題だ。まだまだ自分は未成熟な段階なんだ。それなら、彼女を守れる立場にいながら自己保身をするような独身男が大人の対応か?と問われれば答えはNOだろう。結局彼は自分のことしか興味がないんだろう、彼は卑小な生を選んだ。



独身男は、ことあるごとに彼女を呼びつけ



「僕はこういうことがしたいんだけど…」



と彼女に仕事をまわす。それはただ自分が彼女と接したいから。なぜなら、全く関係なさそうな案件でも彼女を呼び出し確認をお願いしたり、くだらない案件だって彼女に手伝わせようとする。きっと仕事出来る自分みたいなものを見せたいんだろう。ただ彼女の前でカッコつけていたいだけなんだ。彼女の都合だって考えず、思い立てばすぐ彼女の名前を叫ぶ。彼女が忙しそうにしていても、雑談をしようと側に来て話をする。別に構わないけど、そこまでするなら彼女が失敗したときは助けてあげるのが普通なのにいざそうなると責任回避。



結果、彼女だけが責められて出来ない奴だ、なんだと怒られる。どうして他の誰も、彼女自身だって問題があると気付かないんだろう。彼女には自分を責めることでしか逃げ場所を作れないのに。



怒られたあと彼女は自分の席に来て、何を言うかと思ったら「仕事のお願いがあって…」と、普通に仕事の話を始めた。それに焦って彼女の言葉をさえぎるように伝える。




「いやいや、それより大丈夫?」




と彼女の表情を読もうと覗き込んで言った。その場では彼女も「うん、大丈夫だよ」とすこし引きつったような笑顔で言う。どうして?なんで?いろいろな言葉が浮かんだ。仕事の話をしたあと、彼女は席に戻った。すこし考えていたけど、やっぱり気になって彼女の席に行く。




「本当に大丈夫?」


「あ、うん。全然平気。慣れてるし。」


「全然怒られるとこじゃないよね。ていうか『仕事しろ』ってしてるだろって。」


「でも、わたしも忘れてたとこもあるからさ…」



と、彼女はどういう状況で自分が怒られたのか説明をはじめた。





「すこし忙しかったし、わたしも悪いんだ…」


「ちゃんと、今言ったことを説明した?」


「ううん、してない。」


「した方が良いよ、『他の人の都合で遅れたからです』って言えば…」



と、言いかけて、言いなおす。




「そっか、そうすると今度は『リマインドかけろ!相手に思い出させろ!』って怒るのか…」



話すことや、自分の考えをまとめることで必死で彼女の方は見れなかった。見てしまうとまた泣いてしまうかも知れないという思いもあったし。そして、彼女に言う。




「でも、全然こっちに責任はないよ。気にすることないよ。」



そう伝えた。それでも、納得がいかなくて彼女を怒った上司の悪口をすこし言った。




「お前がリマインドかけろって、上司のお前の責任だろ」



そんな悪態ついて、彼女の責任じゃないんだよってことを教えようとした。結局彼女の考えが行き着く先が「自分に責任がある」だから考え方を変えさせなきゃいけない。前の日に、何も変えられなかった自分が悔しくて少し泣きそうになった。




「あ、あんまり言うとまた泣くから…」




と、席に戻り際に彼女に言う。彼女はそれに小さい笑顔で答えた。


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このページは、karinがApril 10, 2008 12:00 AMに書いたブログ記事です。

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