ヒューマンエラー
「あれ?プリンターエラー出てる…」
そう会社の女の子が言う。今の会社であたらしくプリンターを導入してから初めてのエラーだった。すこし落ち込むようにする彼女。
「なんでエラーしたのかな?」
「ごめん。なんかMACの調子が悪いみたいで…」
「あ、そうなんだ。プリンターのせいじゃないんだね」
「うん」
「良かった」
古いプリンターを使っていたときには、エラーを起こすたびに彼女はストレスを感じていた。そのため、彼女はエラーに対して敏感になっていた。イスに座る彼女の側に屈んで、下からの目線で言う。
「なんかさ、自分の調子が悪いとMACの調子も悪くなるみたいだね」
そう暗い表情を出して言うと、彼女が心配そうに聞いてくる。
「調子悪いの?」
「うん、さっきもエラーでて再起動したんだけどさ…」
と、ここで彼女はたぶん体調のほうを心配して聞いてくれていたんだと思う。自分もその話をしようかと思っていたのだけど、自信喪失状態で深く聞いてこないだろうと判断をし、曖昧なままで話題を切る。すると、こっちの目を見つめながら彼女が言ってくる。
「なんか、噛み合ってないね」
自分は会話するのが苦手だという意識が強いし、そのことで余計に考えこんでしまい、会話の間がおかしくなることや質問に対する答えになってないこともある。けれど、何故その発言に至ったのか考え意思疎通しようと試みる女の子はタイプだ。
考えてることに興味を持ったり、理解しようとしてくれたり。
「いつも考えすぎだよ」
そう彼女から言われたこともある。石橋を叩いて渡る、それ以上に何度も叩いて結局渡らないような性格。逆に彼女の場合は、とにかく思った瞬間に行動するタイプらしい。全く正反対。合わないのか、それとも互いの足りない部分を補えるのか。
その日は落ち込んだまま自分の机に座って、何もせずモニターの明かりだけを見つめていた。デートに上手く誘えなかったこと、仕事に対する不満、空虚感。彼女が隣の席に来て何か作業していることに気付いたが何の反応もしなかった。どうせ、話すこともないし…。なんていじけていたのだけど。
すると何となく、ふと後ろを振り返った。そしたら、1メートル後ろの距離に彼女が立っていた。何て言ったら良いものかなっと考えを巡らせて見つめ合うこと数秒。素っ気ない態度をして彼女に言った。
「あ、居たんだ…」
ウン、と頷く彼女。そして口を開く。
「なんか、寂しい後ろ姿してるね」
そう、言われた。なんか答えなきゃと思って考えを巡らせていると、彼女が一歩一歩進んできて距離を詰めてくる。そして今進めている案件に対して一生懸命に話題を振ってきた。楽しそうに、元気付けるように。たぶん、プリンターがエラー起こしたときの「調子が悪い」と言ったことを気遣ってたんだろう。
で、そのあとはくだらない会話の話に続いてくるんだけれど…。
彼女は優しすぎるほど優しくて、努力もしている。けれど、周りがそれを誰も認めないし自信を失っている。変なところで弱気になっていて、主張があっても大人しくしてしまう。このままじゃ報われない。
「思い切って辞めちゃってさ、たくさん迷惑かけて辞めれば良いじゃん」
そう彼女に言ってみたこともある。
「わたしも辞めるのは考えたけど、迷惑はかけたくないんだ。それは、今までの人がわたしにしたことと同じだから、同じことを他人にはしたくない」
そう彼女は答えた。優しいが故に、すべての被害を自分が被ってしまう。そして、彼女だけが責められる。会社の中で逃げ場がない人なんだと思ったら、実際にその通りだった。
その女の子が「会社にいるのも辛いから逃げ出したい」と感じても辞めていないのは、きちんと引継ぎをして迷惑をかけずに辞めたいという理由もあるんだろう。ほんと健気…。彼女は決してそうは口に出さずに自分のためだと言うけど。
考え方がしっかりしていて、軸がぶれてない。そういう女の子に惹かれてしまうんだろうな。
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